top of page

Special Interview
振付師 ナンシー(kunitake)さん
運営インタビュー編

多くのRAY楽曲の振付を手掛け、時に身体的に、時に詩的に、決して画一化せず自由で多彩な振付を施し続けている振付師のナンシー(kunitake)。運営インタビューでは、彼女の芸能活動のスタート地点から、振付の感性のルーツ、アイドル業界への思いまで幅広くその才能を掘り下げた。

■アクターズスクール時代から今に繋がる

運営(楽曲ディレクター・みきれちゃん) よろしくお願いします。いきなりですが趣味はおありですか?

 

ナンシー 趣味がないんですよ。結局、全部仕事に繋がってきてしまう。

 

運営 それは小さい頃からですか?

 

ナンシー はい。歌って踊って、お芝居とかも出来ないといけない環境にいたので、1つ1つそうした芸能的なものへ変換してしまうみたいです。

 

運営 ナンシーさんの出自的なことをお聞きしたいです。いわゆるアクターズスクール的な環境にいたと聞いた記憶があります。

 

ナンシー そうです。14歳の頃から。

 

運営 思春期には芸能の世界に浸っていたような感じでしょうか?

 

ナンシー はい。

 

運営 芸能と言っても幅広いと思いますが、どういう方向に進みたいとかはあったのでしょうか?

 

ナンシー 安室奈美恵ちゃんみたいになりたかったです。

 

運営 なるほど。若い頃からバリバリ仕事もされていた感じでしょうか?現在の振付師という仕事の前はアイドルをやられていましたが、それ以前はどんなお仕事をされていたかお聞きしたいです。

 

ナンシー 演者としてはライブ活動をしたり舞台に出たり、映像のお仕事をしていました。

 

運営 いろいろ経験しつつ自分の方向を定めていくみたいな時期だったと想像します。そんな中どこかのタイミングで、「アイドルをやるぞ」という気持ちが固まった時期があったのかなと思いますがいかがでしょうか?

 

ナンシー 20歳くらいの時に、ライブ活動をやめようかなと思った時があって。その時にアルバイト先の先輩が「もったいないから続けなよ」と言ってくれて、紹介されたのがナト☆カンのプロデューサーさんで。

 

運営 ナト☆カンへの加入で初めてアイドルカルチャーに踏み入れた感じでしょうか。

 

ナンシー ナト☆カンでは最初は「アイドルじゃなくていい」って言われて。だから私は着ぐるみを着てて(笑)、みんなと同じ服も着なくていいし、同じ振りもやらなくていい、ただただステージで好きなことをやっていいよみたいな感じだったんです。ただ、グループに勢いが出てきたタイミングで、自分にも応援してくれる人がいて、そんなこともあってパンダの着ぐるみもちょっとずつ脱がされて。

 

運営 その頃から振付はやっていたのですか?

 

ナンシー まだその時は自分が振付をするという発想は全くなかったです。

 

運営 振付に興味を持ち始めたり、実際に振付を始めるようになったタイミング、きっかけはありますか?

 

ナンシー 23、24歳くらいの時に、当時ライブでよく一緒になっていた後輩グループに当たるようなグループが新ユニットをやることになって、お世話になっていた運営の人たちからお話をいただいたことがきっかけです。

 

運営 当時から振付師としていけるな、といった感覚はありましたか?

 

ナンシー それまでも自分が踊るものに振りをつけることはあったので、振付自体は全く初めてではなかったんです。踊っている子たちがすごい可愛い振付だって楽しそうにやってくれたのはよく覚えています。アイドルってちょっとダサめの動きとかが逆に良かったりすると思うのですが、そういうのを全く除外して自分が可愛く見える動きみたいな振付を渡しました。

 

運営 他のグループにもすぐに振付を始めたのでしょうか?

 

ナンシー 最初はやっぱり少しずつで、最初に振付の仕事を振ってくれた方がいろいろやらしてくれて。そのうち、「どうやらナンシーが振付をやっているらしい」という情報が広がって、仲の良かったアイドルさんから依頼をいただけるようになって。そんな流れのうちにわーっと広がっていった感覚です。

 

運営 アイドルをしながら振付師もしていたということだと思いますが、どこかでアイドルではなく振付師に専念しようと思ったタイミングがあった?

 

ナンシー 振付師に専念、というよりは、アイドルを辞めようかなと思っていたタイミングで、辞めて何しようかなと考えた時に、それまでアイドルをやりながら培ってきた振付のノウハウとか、楽しさに改めて気付いたんです。そういうのもあってアイドルを辞めたのですが、その時はまだ「振付師の仕事を増やすぞ!」みたいなのは、あまりなかったかもしれない。

■「ナンシー」という名前の由来

運営 「ナンシー」という名前の由来を教えてください。

 

ナンシー もともと小さい時に「ジェニファー」ってずっと呼ばれていたんです。アクターズスクールでその話をしたら「お前はジェニファーなんておしゃれな名前じゃなくてナンシーだよ」みたいなことを先生に言われて。すると、ジェニファーだと全然覚えてくれなかったのに、ナンシーになった途端にスクールの人たちからすごい認知されて。ナンシーなんだ、と思いました(笑)。

 

運営 なるほど(笑)。

IMG_4940.jpg

■影響を受けたカルチャー

運営 ところで最初に趣味の質問をしたのは、ダンス以外にどんなカルチャーから影響を受けているのかということをお聞きしたかったからなんです。

 

ナンシー 漫画と小説、映画は観ます。あと趣味までは行かないんですけど、裁縫がすごい好きで、気付いたら裁縫しているみたいな。

 

運営 なるほど。裁縫はどんなものを作られるんですか?

 

ナンシー 洋服をちょっとだけ変えたりとか、バスマットを作ったりとか。バスマットはもう裁縫じゃないんですけど(笑)、端切れを組み合わせて作ったり。

 

運営 自分にとって大切な漫画、小説、映画を教えて欲しいです。

 

ナンシー あー、映画だと『天使にラブソングを…』です。小さい頃からDVDがあったんです。演者だったときはそれはそれで感銘を受けていたんですけど、教える立場になってから観て、みんなの気持ちを盛り上げながら導く感じとかがグッときて、すぐメモしました(笑)。

 

運営 なるほど。小説、漫画はどうでしょうか?

 

ナンシー 三島由紀夫とか安部公房とか。読んでいてすごい嫌な気持ちになったんですけど、文字だけでこちらをこんなに嫌な気持ちにさせるのはすごいなと思って。漫画は好きなものが多いです。『レベルE』は引っ越す時にもちゃんと連れてきました。

■振付の面白さと自己表現

運営 人に振付することと、自分自身が演者として表現することにはどんな違いがありますか?

 

ナンシー 振付をするときは、振付した人のフィルターを通した時にどうなるかみたいなのがものすごく面白くて、自分でやるときは深めていくのがすごい楽しいです。

 

運営 なるほど。深めていく自己表現というのは現在でも続けていらっしゃいますか?

 

ナンシー ここのところはあまり出来ていないので、それこそ人の振付を踊りたいなあと思っています。

 

運営 僕はダンスカルチャーに馴染みがないのですが、例えばダンスで何かを表現したいと思ったとき、仲間集めとか、一緒に創作、表現とかってどうやってやるものなのでしょう?

 

ナンシー ダンスをやっていると必然的にダンスをやっている人が集まる感じでしょうか。ダンスを習うにしても1対1で、ということもなかなかないので。そのあたりで気が合う人と始めるとか。

 

運営 ダンスを表現する場所というのはどういうところがありますか?

 

ナンシー 最近だともっぱら映像なのかなあ。

 

運営 なるほど。一緒にダンス動画を撮ってYouTubeにアップするとか、TikTokとか。

 

ナンシー 自己表現という話に戻すと、今年はもっと歌を歌おうと思って。

 

運営 安室奈美恵さんに憧れていたというお話がありましたが、それは踊って歌うみたいな感じでしょうか?

 

ナンシー そうですね。歌うのはとても好きです。

 

運営 ナンシーさんに初めて振り入れをしていただいた時に、ナンシーさんがワンフレーズを口ずさんだことがあって、それだけで「あ、この人、歌をやってた人だ」と分かるくらい上手でした。

■振付の考案にかかる時間

運営 今総曲数でいうと150〜200曲くらい振付をしているとおっしゃっていました。

 

ナンシー 年間大体50曲くらいです。1か月でいうと少ないと4〜5曲、多いと7〜8曲くらいやっています。

 

運営 ナンシーさん以外にも過去お世話になった振付師さんを振り返った時、振付師さんが振付を考案するまでのスピードの早さに驚くことが多いです。ナンシーさんも振付を考案するスピードは早い方ですか?

 

ナンシー あー、どうなんでしょうか。結構時間が掛かってるなあって思ったりします。

 

運営 一番早くてどれくらい、長くてどれくらいとかはありますか?

 

ナンシー 曲の全パートではないですが、頭、サビ、終わりが決まればなんとなく形になるじゃないですか。RAYの「Rusty Days」は本当に早くて、一回聞いた時に大体できました。なので5分です。

 

運営 5分(笑)。曲にも依るかと思います。多分「サイン」なんかは大変だったと想像しているのですが。

 

ナンシー 「サイン」もそれほどではありませんでした。3〜4時間くらいスタジオに入って作りました。

 

運営 では逆に一番時間がかかった、困った曲はどれですか?

 

ナンシー 「moment」ですかね。フィーリングが合うか合わないかで結構変わってしまうところはあって。「moment」は自分の中で今まであったRAYのイメージとは違ったから。

 

運営 あの時は、「曲の雰囲気が今までと違うので、既存曲にどれだけ馴染ませられるかがポイントになると思います」とお伝えした記憶があります。

moment_ナンシーさんメモ3.jpeg

■アイデアが凝り固まった時の解消法

運営 僕は曲を作るのでそれに置き換えて考えてしまうのですが、月4〜5曲の制作は苦痛です(笑)。そもそも出来ないし、アイデアが枯渇したりとかはないのかなと勝手に心配になったりもするのですが、そんなことはないですか?

 

ナンシー 枯渇はしないんですけど、凝り固まってくる感じはあるかもしれないです。

 

運営 そういう時はどうするんですか?

 

ナンシー 忘れます。音楽も聞かないみたいな感じで、一旦は全部忘れます。

 

運営 それでニュートラルな状態に戻るものなんですか?

 

ナンシー ニュートラルにはさすがに戻せないんですけど、それこそ音楽から離れて普通に買い物に行った時に降りてくる、みたいな時はあります。

■アイドルダンスの特殊性

運営 振付といっても様々な仕事があります。企業ポスターのポーズを決めるのも振付師の仕事だったりします。そのたくさんある選択肢の中で、アイドルダンスへの思いみたいなものを教えて下さい。

 

ナンシー ライブアイドルとしての演者から教えていく立場に変わるうちに、こういうことを言ってくれる大人がいたらよかったのに、と思うことが増えて、そういう大人になりたいみたいなところはあって。今頑張っている人たちと一緒に頑張って、その人たちが大きくなってくれた方が嬉しいなあという思いが強いかもしれません。

 

運営 アイドルダンスの特殊性みたいなものはあったりしますか?

 

ナンシー もう何でもありってところでしょうか。

 

運営 なるほど。状況によってこういう踊りをすべきというようなルールみたいなものが当然ダンスにはあって、というような話題ですよね。

 

ナンシー そうです。踊ってたなーと思ったら急に小芝居が始まっても成立するというか。

 

運営 それは音楽的な側面でも同じかもしれません。1つのバンドが出せる音は限られますが、アイドルのライブではバンドをいくつも連れてこないと出せないような音が1つのステージで聴けてしまいます。似た現象なのかもしれません。

■好きな振付

運営 ナンシーさんの好きな振付って具体的にありますか?

 

ナンシー ピンクレディーの「UFO」の振付師さんはすごいと思ってて。

 

運営 「UFO」てやっぱりこう(後頭部から手を出す仕草)じゃないですか。ここですか?

 

ナンシー そうなんですけど、そこの振付、UFOが着陸したところを表現しているっていうのを何かで見て、その後の振付も全部良くて、音にも合ってるし、見たらなんか忘れられないし、踊っていて気持ちいいし、頭から終わりまですごい振付だなと思います。

■振り入れ中に振付を直す

運営 RAYで一番難しかった振付は「moment」という話題がありましたが、楽しかった振付はありますか?

 

ナンシー これよくできたなあと思うのは「Fading Lights」です。特にサビです。RAYでの振付は踊らせがちなのに、よくここで踊らせない選択が出来たなって。

 

運営 サビの振付、とても良いと思っています。

 

ナンシー 「Fading Lights」はアウトロの振付を、振り入れ現場で変えたんですよね。(内山)結愛ちゃんが歌うところ。RAYは最終調整段階で振付を変えさせてもらうことが多いかもしれない。

 

運営 振付を変えるという話題ですが、先ほどのメンバーインタビューで、僕とナンシーさんが相談して振付を変えていくというような話がありました。

   僕はいつも「ダンス素人なのに差し出がましいなあ」と思いながら、ナンシーさんにあれこれ相談や確認をさせてもらっているのですが、一方でこんなことも思っていて。これは想像でもあるのですが、振付は振り入れを一回やってそれで完パケということが多いんじゃないかなって。でも楽曲制作に置き換えると、「できました」でやり取りが終わることはまずなくて、そこで必ず複数回、制作物の調整の往復が発生します。振付もそれと同じ感覚であるべきという気持ちがあって。

   一方、振付は楽曲制作と違って、オンライン上でデータでやり取りといったことがなかなか難しいので、だとすると振り入れ現場に行って、その場でいろいろ質問して、直して欲しい部分はお願いするのが総合的に最も効率がいいと思っています。

 

ナンシー 直して良かったと思っているのは「レジグナチオン」です。

 

運営 「レジグナチオン」はもともと中華っぽい振付でしたが、最終的に全く違う振付になりました。

 

ナンシー あれはもともと今RAYが踊っている振付があって、中華っぽい振付とどちらにしようか悩んでいたのですが、あーそっちじゃなかったか、と。「17」も後日、再度レッスンに行って振付を直しました。

 

運営 振り入れの後に帰って動画を見返したら、やっぱり気になって相談させてもらって、というパターンもあります。

改)【立ち位置】Fading Lights.jpg

■振付の正解/不正解

運営 ナンシーさんにとって振付の正解/不正解の感覚はどんなところにありますか?

 

ナンシー 本当に感覚なのですが、メンバーに合っていないと思ったら不正解です。

 

運営 それはグループではなく、メンバーなんですね。

 

ナンシー そうです。感覚的にはメンバーです。この子たちがやるのはこれじゃない、みたいな感覚です。

 

甲斐莉乃(以下甲斐) 質問していいですか。ダンスがもともと好きだったということなのですが、好きなことを仕事にしていくのって、好きなことに苦しめられていくような部分もあると思っていて、自分は実際そういう部分があって。仕事にすることで負担になったりとか、嫌いになっちゃうような経験はないですか?

 

ナンシー あー、ないですね。多分、振付を考えるのと、踊る自分が、心の別の部屋にいる感じで。振付が出てこないと思っても、自分が踊ると楽しいから。ダンスが嫌いというのは違うというか、踊っていたらどうでも良くなる感じで。振付を考えるときに必ず歌詞を見て歌うんですけど、わあここのメロディーすごいなあとか、ここで息継ぎするんだろうなとかやっていたら楽しくて、苦悩があっても別の方向に発散できているのかもしれないです。

     そんなこともあってなのか、RAYの曲、もっといっぱいカラオケに入って欲しい(笑)。歌いたい。

 

甲斐 ありがとうございます。

 

運営 ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。

今回の運営インタビューでは、ナンシーを作り上げてきた活動歴や、影響を受けたカルチャー、振付・アイドルカルチャーを捉える彼女独自の視点などをお聞きした。メンバーインタビューではアイドルダンスの特殊性、メンバーのダンスセンスの特徴など、さまざまな要素を考慮しつつ考案される振付の機微について伺った。未読の方はぜひお読みいただきたい。

Special Interview 振付師 ナンシー(kunitake)さん 〜メンバーインタビュー編〜

bottom of page