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Special Interview
楽曲制作者 管梓さん
運営インタビュー編

これまで1stアルバム『Pink』では「Fading Lights」、「スライド」を、2ndアルバム『Green』では「ムーンパレス」、「スカイライン」、「ナイトバード」の三部作を、的確なリファレンスと単なるリファレンスに閉じない独自性のある楽曲、歌詞世界とともに提供してきた管梓(For Tracy Hyde/エイプリルブルー)。運営インタビューでは、明確な感性の軸を持ちながらも雑食的で多接続的で、自身のバンド、そしてRAYに限らず多くの音楽表現・活動を展開している管の、過去、現在、未来に迫った。

■想像力、空想について

運営 色々質問を用意していますが、まず先ほどのメンバーインタビューから質問させてください。生々しい音楽に興味がないという話題が出ていましたが、もう少し具体的に教えていただけますか?

 

管 生々しいというのは、表現の内容がというより音の質感の問題ですね。例えば、明確にものすごく苦手な音が一つあります。スネアの胴鳴りというか、木の質感みたいな生感です。基本ドラムはコンプレッサーで潰れていればいるほどかっこいいみたいな。あとはリバーブ感の薄いドライな音楽が昔からあまり好きじゃないです。リバーブはかかっていればいるほどいいみたいなところはあります。

 

運営 なるほど。突然ですが旅行はお好きですか?

 

管 旅行はしないけど好きです。たまに友達に誘われるとか、家族に連れていかれるとか、すごい楽しいんですけど、自分から計画立ててすることはないです。

 

運営 旅行は好きだけど、実際にはしない、なぜなら空想世界で旅行をできているから、管さんにそうしたイメージを勝手に持っていての質問でした。

 

管 ええ!そんなことはないです。正直、自分も想像力が豊かな方ではないんだろうなという感覚があって。前友達と話していても「管って妄想しないよね」と言われました。例えば、理想のデートプランとかがなくて。具体的にどこに行って、何をして、どういう状況になってみたいなところ、全然考えたことがないっていうか。

 

運営 それはなぜでしょう?

 

管 分からないんですけどとにかく昔から想像とか仮定の話とかをしないんです。歌詞とかも自分と切り離していて、ある程度求められるものを書いているというか。

 

運営 求められるものとは真逆の、自分自身の精神世界を描くとするとどうなりますか?

 

管 求められているものを書いているとはいえ、書きたくないものを書いているわけではないので、結局変わらないんじゃないですかね。他人の話で言うと、自分が書く歌詞の方向性と違う歌詞は、そんなに興味が湧かないですし。

 

運営 全く興味がなかったものにある時から突然興味を持ち始めることとかはありますか?

 

管 全然あります。ニューウェーブ、ポストパンク的なものが全然好きじゃなかったのですが、ある時から聞けるようになってきました。何でもかんでも無方向に好きになるわけではないのですが。自分の感性の本筋ではないはずなのに「いいな」と思うのは何故なんだろう、といったところから共通項を探り出すみたいなことは、自分の中でやっていることではあります。

  例えばブラックミュージックの話をすると、もともと僕は渋谷系とかが好きで、サンプリングを通して別の時代に言及することで生まれるノスタルジーとか、そういう感覚がサンプリングベースの一部のヒップホップとかとつながってくるんだろうなみたいなところは考えたりします。

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■過去を参照するということ、そこから生まれるクロスオーバー

運営 過去をサンプリング、リファレンスにすることで生まれるノスタルジーという感覚は僕もわかります。

 

管 年始のRAYのワンマンもそれが顕著でしたよね。

 

運営 リファレンスを自覚した制作作法について何か思うことはありますか?僕は、リファレンスを自覚するしないにかかわらず、何かしらの制作は常に何かしらのリファレンスの上に成り立っていると言う感覚が強くあります。

 

管 自分と近いスタンスだと思います。ロックが生まれてかれこれ70年とかになるので、今更全く新しいロックみたいなものは生まれようがないと思っています。要素の組み合わせの問題でしか無くなっているというか。例えばThe Beatlesとエレクトロニックなダンスミュージックが出会うとThe Chemical Brothersになったり、Tame Impalaになったりとか。ディスコがローファイとかシューゲイズと出会うとチルウェーブになってWashed Outが出てくるとか。文脈のクロスオーバーでしかもう新しい面白いものって出てこないんじゃないかなと言うのは思っています。逆に言うとそこにある種無限の可能性があるとも思います。誰もが想像していなかった組み合わせで面白いものが生まれてくるみたいなのは、夢があると思います。

 

運営 「楽曲派」と呼ばれるアイドル文化は、ある種文脈のクロスオーバー性で成り立っている部分があると思います。RAYで言うとアイドルというフォーマット、カルチャーと、シューゲイザーサウンドのクロスオーバーですが、ここで何が起きているのか実は誰もあまりわかっていない気がします。よく分からないから「化学反応」というマジックワードで濁して表現されているような事象だと思うのですが。

 

管 僕はアイドル文化に対しては門外漢なところがあるのですが、ただ、アイドルはおっしゃるように音楽ではなくカルチャーの様式の一つだとは思います。シューゲイザーは精神性とかライフスタイルと結びついているようなものだと思っていて、つまりシューゲイザーを好むのは内向的な人たちで、サブカルチャーに関心があって、大体同じような映画を見ていて、同じような本を読んでいてみたいな、ある種の画一性みたいなものがあると感じます。ですが、そこにアイドルカルチャーが交わると一気にその画一性が損なわれる。いい意味で崩されていくというか、シューゲイザーという音楽が従来の文脈から切り離された場所で音楽として演じられ、受け止められる、というようなところがアイドルが絡むことの面白さかなと思っていて。だから、実はそこでシューゲイザーが、一つの文化ではなくて、純粋な音楽として受け止められる可能性というのが、ある意味生まれてくるのかもしれないということをちょっと思います。

 

運営 いい話ですね。RAYは楽曲レベルではマイナージャンル音楽との異分野融合をコンセプトにしていますが、言葉を選ばずにいうとそのジャンルが培ってきたフィールドに土足で乗り込むような行為と見る人もいる、実際います。もちろん僕は最大限の敬意を払って、決して失礼のないクオリティのものを作っているつもりですが、今の管さんの話を聞いて、音楽が蹂躙されたというよりは、カルチャーや精神性が蹂躙されたという感覚を惹起するのだろうと感じました。

   異分野融合というコンセプトは、なんでもそうですが保守化してしまったある分野に全く違うベクトルの解釈、表現、聞き方みたいなものを突き刺すと、その分野の全く別の分岐が生まれ、そしてそれはきっと面白い、というような思いからきている部分はあって、もしかするとアイドルというカルチャー、フォーマットが音楽ジャンルと交わることの意味、「化学反応」と呼ばれている事象の実態はそういうところにあるのかもしれません。

   一方で「化学反応」という言い方はアイドカルチャー側から見た場合に使われる言葉という気もします。音楽カルチャー側、管さん側から見てこの「化学反応」と呼ばれる事象はどんな風に感じますでしょうか。

 

管 なんだろう、RAYにアクセスすることでシューゲイザーも聞け、IDMも聞け、パンクもエモも聞けるみたいな、ある種メディアとしての機能を持ち始めているところがあると思うのですが、そこが進んで行ったら面白いなとは思います。

■バンドでの制作とバンド外での制作

運営 管さんはバンド以外の制作も幅広くやっているように感じます。

 

管 会社員を辞めるところまで行けたら全然もっとやれるのですが。

 

運営 いわゆる楽曲制作的な仕事が多いですか?

 

管 アレンジャー的な仕事が多いかもしれません。最近だとシバノソウさんのアレンジを2曲、新山詩織さんのアレンジを2曲やらせて頂きました。他だと、日本語歌詞を英語で歌えるように翻訳する仕事をラブリーサマーちゃんで2曲。プロデューサー業だと、fish in water projectという群馬の友達のバンドのサウンドプロデュースをしました。

 

運営 サウンドプロデュースもやっているんですね。

 

管 音作りに興味がない割にはやっています。

 

運営 音作りに興味がないとのことですが、僕と楽曲制作のやり取りしている時にここが気になるみたいな話をすると、的確にじゃあこうしてみるのはどうですかと音作りの提案がされたりもします。

 

管 プロダクションの技法みたいなところは昔から興味はあります。元々The Beatlesが好きなんですが、The Beatlesって全曲解説本とかがざらに出ていて、そこでこの曲はこういう技法をGeorge Martinが使ってるみたいな話が出てきて。そういう話題は好きです。

 

運営 バンドで培った感性をベースに外部制作物をアウトプットしているイメージですか?

 

管 どちらかというと、バンドで普段やっていることと、外部からきた依頼の折衷点を探るみたいなところが楽しくてやっている感じではあります。あと、外部案件は今まで自分がやってことなかったことを振られるみたいなことも多くて、このジャンルのこういうところはこう作られているのか、といったことを考えるきっかけになるので大事だなと思います。

 

運営 もう一つバンドを始めたいという噂を聞きました。まだ増やせるんですか?(笑)

 

管 やりたいと思っていますし、まだいけるという部分はあります。

 

運営 どんなバンドですか?

 

管 今アメリカで増えている、エモとシューゲイザーがクロスオーバーする感じのバンドに興味があります。TurnoverとかGleemerとか結構いるんです。コテコテのエモではないのですがMIDWEST EMOのニュアンスを感じたり。アルペジオがキラキラした感じのバンドをやりたいのかな。

 

運営 そういうサウンドが最近はやっているのでしょうか?

 

管 ここ何年かのトレンドだと思うのですが、日本でやってるバンドはあまり居ないと思います。

 

運営 RAYはイギリスのAmusement parks on FireのDaniel Knowlessさんに「Gravity」という曲を作ってもらいましたが、Amusement parks on Fireもエモとシューゲイザーのクロスオーバー的なバンドです。ああいうサウンドのバンドって居そうであまり居ませんよね。

 

管 そうですね。Amusement parks on Fireが早過ぎた。

■「売れる」ことについて

運営 全然話が変わるのですが、管さんは一発当てる、売れるみたいなところを結構考えているじゃないですか。とても大事な思考だと思っているのですが、一方でそういう姿勢は悪だと見なすアーティストアティチュードみたいなのも世の中には存在します。

 

管 シューゲイザー周りだとそもそも売れることを諦めているみたいな雰囲気というか症状があります。

 

運営 アイドル運営としては、売れることは重要というか、そこを蔑ろに活動することはできないので、管さんの売れることへの意思みたいな部分は、共感する部分です。僕にも「シューゲイザーなんてマイナーなジャンルをやっても」と言う人もいますが、売れない音楽を選んでる感覚はあまりないです。

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■管梓楽曲の位置付け、歌詞の世界

運営 ここからは楽曲制作に掘り下げた話題なのですが。管さんはRAYの楽曲制作陣の中ではかなり頑固な方です(笑)。

 

管 本当ですか?そんなことないです。あ、そうなんだすみません。

 

運営 意見をくださることはすごく大事だと思っていて、実際そこで折衷案を探ることで結果的にいいものが生まれるというエピソードもあります。2ndアルバム『Green』に収録されている「しづかの海」ですが、初稿段階ではかなりドライなmixでした。僕はそのドライ感がオリジナルであるドッツ(注:・・・・・・・・・の通称)のバージョンと差異化もできるしいいなと思っていたのですが、管さんからはもっとリバーブを効かせて欲しいと要望がありました。そこでリバーブ感を深くしたバージョンがエンジニアさんから届いたのですが、今度は僕はこれはリバーブが効きすぎていると感じました。そこでサウンドエンジニアさんに「今から管さんに最新版を届け、その上で初稿で行きたいと伝えますが、おそらくその中間くらいのリバーブ感でどうですか、と回答が来ます」と話をしていたのですが、本当に、中間くらいのリバーブ感でどうすか、と回答が来ました(笑)。実際ちょうど中間的に調整したものがアルバムには収録されているのですが、結果的にいいバランスになったと感じています。

   ところで、RAY楽曲の中で管さん曲はどんな位置付けだと感じていますか?「Blue Monday」、「星に願いを」、「17」を制作してくださった等力さんは自分の曲を山椒的なスパイス要素というようなことを話していました。

 

管 焼き鳥で言うならねぎまじゃないですかね。一応、王道に近い場所にあるというか、それほど聞き手を選ぶ感じでもないと思いますし。合間合間に他の方がネギを入れてくださっていて、そのおかげで飽きずに食べられるようになっているみたいなところはあるのかなと。

 

運営 なるほど(笑)。RAYが大切にしているシューゲイザーという音楽性と、それでありながら一方でポップさを諦めない、言い換えればアイドルソングとして成立させることへの強い意思みたいなもの、そういうものを管さんの楽曲は体現してくれているように感じます。

   今のは楽曲の音レベルの話ですが、管さんの楽曲は歌詞もとてもいいです。どの歌詞も、限られた文字数の中で最大限の物語を表現していて、小説を読み切ったような感覚があります。RAYの楽曲がもし、ありふれた君と僕の恋愛観みたいな直接的な歌詞だと、トラックの表現性とギャップが出て途端にダメになるだろうと思います。管さんの歌詞はコンテンツの表現性を担保する重要要素になっている。

 

管 いい歌詞だなとは思っているのですが(笑)、それが何故いいのかとかはあまりわからないというか。良くない歌詞は分かるのですが、いい歌詞の何がいいのかみたいなところを分析したりするのがあまり得意じゃなくて。

 

運営 管さんは作詞の際に、架空の主人公を作って、それをカメラ越しに眺めているように作っているのではと勝手に想像しているのですが。

 

管 Balloon at dawnというバンドのMVをずっと撮っている監督が、For Tracy HydeのMVは撮れない、というようなことを言っていて。それは何故かというとBalloon at dawnの歌詞は第三者的な視線で登場人物を俯瞰するようなもので、MVもそれをトレースすように撮影しているけど、For Tracy Hydeの歌詞はちょっと当事者性が強すぎるから撮れないと。

 

運営 そうなんですね。僕は真逆の印象です。余白がかなりあるのでどういう情景を投影するかが聞き手に委ねられているというか。「スライド」という曲に「麦わら帽子が風にさらわれても」という歌詞がありますが、それほど難しい表現ではありませんが、前後の歌詞や全体の文脈から多様な情景投影が可能だと思っています。僕はセピア色のコマ送りの映像で、しかも実写ではなくアニメのしかもラフな線画であのフレーズが頭を流れていきます。

   その話とも繋がりますが、管さんの歌詞は時制で言うと過去的です。今という時制はあまり使わない印象があります。

 

管 未来のことは本当に歌わないですね。使う順で言うと過去、今、未来ですかね。

 

運営 その時制感的なノスタルジーはあるように感じます。

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■「ムーンパレス」、「スカイライン」、「ナイトバード」の三部作について

運営 2ndアルバム『Green』に収録される「ムーンパレス」、「スカイライン」、「ナイトバード」は三部作で、この三部作構想は実は2年くらい前から話していたものです。新型コロナウイルスが流行し始めて半年くらいの時期にこの話題が出てきた記憶があります。こんな状況だから、オンラインで映画を見るような連作的な音楽を作って公開できないかと。なので映像アウトプットのイメージも並行して考えていました。実際三部作を制作していかがでしたでしょうか?

 

管 シンプルに大変でした。三部それぞれの関連性をちゃんと持たせていくというか、そういうところを考えるのがめちゃめちゃ大変で、整合性とかの面でもちゃんと筋が通っているのかなとか、不安になったりしました。特に第二部「スカイライン」はきつかったです。ポエトリーリーディングの曲とかはそんなに普段作らないし。この第二部で本当に一部と三部を繋げないといけないんだよなって思うと、音とかの面でもどうしたらいいのかなみたいな所とか結構考えるのが大変でしたね。音レベルでも第一部「ムーンパレス」のアナログシンセサウンドと、第三部「ナイトバード」のエレクトロシューゲイザーサウンドをどう架橋するのかというのが難しくて。そこでパワーバラードとトラップビートという解決策が出てきた。

 

運営 めちゃくちゃバランス感覚のいい三部作だと思っています。押し付けがましさがなくて、さっきの余白の話にも繋がりますが、三部作であるという情報だけは知っておいてもらいたい思いがありますが、その上であとは自由に解釈できる余地のある柔らかい連作になっている。

 

管 特にアルバムだと三曲が連続にならずバラけた曲順なので、そういう点でも確かにそうですね。反応が楽しみです。

 

運営 用意してきた質問は以上です。最後に何か言いたいこと、言い残したことがございますでしょうか。

 

管 先程の、管さんは作家陣の中でも頑固な方っていう話で思い出したんですけど、多分シンプルに僕ものぐさなので、出したものを直したくないっていうところがかなり強いんだろうなと思います。修正自体がというより、単純に楽器を弾きなおしたくないみたいなところが多分強いんだろうと思います。

  あとは、コロナ禍中は多分暇している時間もそれなりにあると思うので、また何かあればお気軽によろしくお願いします。

 

運営 了解です。ありがとうございました。

今回の運営インタビューでは、管梓を構成する豊かな音楽的土壌を掘り下げ、そこから彼のアウトプットへとつながる思考と感性が紐解かれた。メンバーインタビューでは、RAYの楽曲制作における意識や自身のバンドでの制作との違い、歌詞の源泉などについて語られている。未読の方はぜひお読みいただきたい。

Special Interview 楽曲制作者 管梓さん 〜メンバーインタビュー編〜

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