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Special Interview
楽曲制作者 Kei Torikiさん
運営インタビュー編

Blue Monday」、「星に願いを」、「17」と複雑なリズムや物語性が特徴的な楽曲群をRAYに提供してきたKei Toriki(明日の叙景)。「星に願いを」では「叫ばない激情ハードコア」というテーゼも掲げられ、話題も呼んだ。時に「難解」のイメージも受ける「Toriki曲」であるが、運営インタビューではTorikiの楽曲や彼自身が持つ「整然性」を具に追っていく。また楽曲制作法の詳細、「自己表現」との距離感、カルチャーとの関わり方についても伺った。

■Kei Torikiの過剰さと整然さ

運営(楽曲ディレクター・みきれちゃん) 改めましてよろしくお願いします。先程のメンバーインタビューで僕も知らないTorikiさんの隠された部分を知れました。なるほどなと思ったのが、Torikiさんの過剰性みたいな話で。でもカオスではないんですよね。多分Torikiさんって情報量がすごい多いんだけど、ものすごく整っている。それはアウトプットを聞いてもそう思いますし、TorikiさんとコミュニケーションをしてTorikiさんの人間性もそういう感じだなという気がするんですけど、どう思われますか?

 

Toriki まあ、その通りだと思いますね。過剰なんですけど、スゴイ神経質で整えようとするところがあるので、その結果かなという感じでしょうか。

 

運営 過剰であることと、一方でそれをコントロールするという2側面がRAYに提供していただいた3曲すべてに表れている気がしています。で、その整える方の側面で印象的なエピソードがあって、「Torikiさんってどうやって曲作ってますか?」と以前質問し、「きっちりスケジュールを引いて、この期間にこの曲のここの部分を作る」みたいな感じで計画立てて作っていくと伺いました。悩みながら作るというよりは「この期間にこの部分が出来上がる」という。

 

Toriki そうですね。

 

運営 あんまり普通じゃないと思います。

 

Toriki そうですか(笑)。基本的には日程を立ててから曲の例えばビートを作るとか構成を作る、ざっくりしたイメージを作る。曲ごとに何から手を付けるかって違うんですけど、基本的にはそうですね。手順を先に考えてしまうみたいなところがありますね。

 

運営 いわゆる表現者的な側面を当然お持ちなんですけど、職人みたいな側面も結構あるのかもしれないですね。

 

Toriki そうですね。なんか技術者っぽい感じですかね。

 

運営 整然としたものの作り方みたいな何か影響を受けたりっていうのはありますか?

 

Toriki どうなんだろうな?でも、結果論っていう感じはありますね。色々試してみて、例えばハードウェアシンセでざっくり作ってから始めるとか、やってるバンドの時も例えばジャム(注:ジャムセッション。ミュージシャンが集まって即興演奏をすること)ってから曲を作り始めようか?みたいなことももちろん試した時期はたくさんあったんですけども、結果的に上手くいかなかったので、結果論としてそうなっているっていう感じですね。

 

運営 色々試して最善の制作のスタイルがそういう感じだったという。

 

Toriki そうですね。

 

運営 一方で過剰性の話でメンバーインタビュー中に面白いなと思ったのが、クラブカルチャーにいた時期があった、オタクカルチャーにいた時期があった、というような言い方をしていて、あんまりこういう言い方する人っていないと思います。というのは、カルチャーを乗り換えて、次こちらに行こう、というような言い方に聞こえたんです。転々として行くっていう感覚というか、自分の人生の文化史みたいなものを戦略的に作っているような。あまりそういう人っていない気がしますが、どうですか?

 

Toriki  単純に新しいものというか自分が持ってないものとか、やったことがないものに首つっこみがちみたいなところがあるので、結果的にそうなってるというのと、20歳前後ぐらいの時に自分探しじゃないですけど、血迷って色々聴いたり作ったりしていた時期があるという感じはあるかと思います。

 

運営 多接続的に色んなカルチャーに足を突っ込むということはよくあると思うんですけど、もしかしてTorikiさんの生き方として「この2年間はこのカルチャーでしっかり学ぼう」みたいな感じの生き方とか、文化圏の所属の仕方とかっていうのをされてたりするのかなと思ったんですけど。

 

Toriki それはありますね。自分の中での意識として、絶対この場所に居続けたいみたいなのがないというか、それがすごく怖い人間なので。どこかに居続けるということをものすごく避けてしまうというのはあります。

 

運営 それはなぜでしょうか?

 

Toriki 自分でも不思議ではあるんですけど、結構本能的なもので、同じ場所に居るのを避けようと思ってしまう。何かに所属したり、何かの中に居ることを極力避けようと思ってしまうみたいなのはありますね。ただ、その反省として、最近はむしろ何かに所属したりとか、何かに両足を突っ込むことの大切さみたいなのを感じてはいます。

 

運営 小学校、中学校の友達とかと会ったりしますか?

 

Toriki あります、あります。

 

運営 僕は小中高ぐらいの友達はもう10年ぐらい会ってないです。僕もカルチャーというか所属コミュニティを乗り換えるみたいなことを無意識にやってるタイプで、自分の人生のステージ毎に、ここのコミュニティが自分にとって居心地がいい、意味があるって言うのを無意識に判断して生きてきたような気がしていて。なのでTorikiさんの言っていたことは凄く分かる感覚があります。一方で、両足を突っ込んでしっかりやるっていうことの重要性を実際、アイドル運営をやり始めて実感していて。運営を始めて6年とかになるんですけども、年を追うごとにできることが格段に増えてきてるので。なので長くやることで意味が生まれてくるというのは僕もすごく実感しています。

 

Toriki 先ほど小学校、中学校の友達と会ったりすると言いましたが、いわゆる地元友達と会うことはほぼないですね。

 

運営 会って何話せばいいんだと思うんですよね。

 

Toriki そうですね。偶然音楽好きで後々会ったらおもしろかったとか、小学校の同級生がdiskunionで働いてるとか、そういう繋がりはあったりするんですけど、いわゆる同期的な幼馴染的なコネクションはほぼ捨てちゃってる感じですね。

 

運営 ところで、さっきのインタビューからの繋がりで、ちょっとTorikiさんの整頓癖について。

 

Toriki 整頓しちゃうんですよね。

 

運営 部屋は綺麗ですか?

 

Toriki そんなにです。何か程々汚いみたいな感じです。

 

運営 埃とかあります?

 

Toriki あ、全然あります。なんかあんまり埃は興味ないみたいな、埃は落ちてても大丈夫だけど……でもルールはありますね。こういうものをここに置きたくないとか、そういう細かいルールがありますけど、埃は大丈夫みたいな感じがあります。

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■RAY運営との出会い

運営 Torikiさんと弊チームとの出会いについてなのですが、Torikiさんから曲作りますという連絡をいただいたことが始まりです。

 

Toriki ドッツ(注:アイドルグループ「・・・・・・・・・」の呼称の一つ)のときになんか面白いことやってるなと思って。TRASH-UP!!企画の渋谷WWWでのライブをちょろっと見て、面白い面白いと思って。ちょっと送ってみようと思ってメールでちょっかいかけたというか、「なんか曲作らせてください」みたいな感じで送って。そこから音沙汰は特になかったんですが、その後繋がりができていった感じだと思います。

 

運営 結構長い間放置していましたか?

 

Toriki そうですね。
 

運営 すみません(笑)。
 

Toriki あ、でも全然気にしないというか、興味あったから送ってるだけなんで僕は全然。

 

運営 営業というか、気になったアイドルグループに連絡したりするというのはよくやられていたのでしょうか?

 

Toriki していた時期はあります。ローラー作戦みたいな感じではないですが、「あ、ここ自分とマッチするな」ってイメージが湧いた所には「何かありますか?」みたいな感じで。「絶対仕事くれ」というよりは何か繋がれば面白いなみたいな感じだと思います。

 

運営 最初にアイドルに提供したのはNECRONOMIDOLさんですか?

 

Toriki そうです。

 

運営 NECRONOMIDOLさん、RAY、他はどんなグループを?

 

Toriki あとSAKA-SAMAとネムレスにも楽曲提供しています。アイドル関連だとYUKO先生のダンス公演とかもです。その辺がメインワークスという感じだと思います。

■「自己表現」はあまり好きでなはい

運営 Torikiさんは肩書きとしては、明日の叙景のメンバー、ということでいいのでしょうか。

 

Toriki はい。

 

運営 バンドとバンド以外の成果物の違いってありますか?あるいは同じ気持ちで制作してるとか。

 

Toriki 前までは同じ、フラットみたいな感じで、「自分の成果物は全部まあ同じもんでしょう」みたいな感じでやってたんですけど、最近はある程度重み付けをする必要があるんだなと感じていて、バンドをやっている人間であることを大事にしてはいます。

 

運営 自己表現というよりは職人的に音楽を作ってるという感覚があるからこそ、バンドの成果物とそれ以外の成果物が等価に並ぶんじゃないかなという気もします。

 

Toriki そういう感じかもしれません。表現が自分に密接に繋がっているかとかは、あんまり考えたことはないです。もちろん自分の曲なんですけど。

 

運営 ロックによくあるメッセージ性とか自己表現とか、そういうのはピンときますか?

 

Toriki 自己表現してるつもりはないです。いや、結果としてなっているし、多分聴いてる人たちもこれがTorikiなんだなと思っていると思うんですけど、自分自身、自己表現とか、表現という概念自体があまり好きじゃないです。

 

運営 僕のToriki楽曲への印象もそんな感じです。情熱とか感情とかが生々しく注ぎ込まれたというよりは、私が良いと思うのはこれです、見てください、という標本的な感じがする。

 

Toriki 淡々としているものが好きなのかもしれないです。

■明日の叙景での楽曲制作の方法論

運営 バンドとそれ以外の制作がフラットという場合、方法論が違うぐらいですか?

 

Toriki 基本的には使ってる楽器が違うくらいで、感覚ではそんなに大差ないと思います。

 

運営 じゃあ方法論という話で言うと、さっきセッションって話題が出てましたけど、バンドの時は最近どんな感じで作られてますか?

 

Toriki 実はRAYのメソッドを真似して、先に曲のコンセプトがあるほうがいいだろうということで、先に曲のイメージを決めていて、歌詞とイメージを先に作ってから曲を作り始めるというふうにやっています。さっきの自己表現やメッセージの話とは矛盾はするんですけど、やっぱり何を表現したいかっていうのが……ああ、表現って単語使っちゃった。

 

運営 (笑)。

 

Toriki コアにどういうアイデアがあるかを、関わる人間の間である程度共有してから作りたいということなのですが。共同で何か作ろうとした時に、みんなの思っているイメージが全然違う、みたいなことってあると思います。僕は海っぽい感じだと思ってるけど、メンバーは都市っぽいイメージだったみたいなことがあって、それは時間がもったいないから、先にアイデアを決めてからやろうとなって。すると必然的に歌詞も並行して考えなくてはならなくなりました。

 

運営 歌詞から作り始めるということは、最初の歌詞はかなりラフな状態だと思うんですけど、それをメロディに落として行く時に添削していくようなイメージですか?

 

Toriki そうですね。まずメンバーから歌詞が送られてきて、そのイメージをみんなで練ってから歌を入れるんですけど、当然バシッとは嵌まらないので、そこで言葉の数を減らしたり増やしたりが必要になってきます。そこもみんなで話し合いながらやっています。

 

運営 僕は歌詞から作ったことないんです。もしかしたら頭でぼんやり浮かんでるイメージみたいなものをちゃんと言語化すると歌詞的なものになるのかもしれないですが。

 

Toriki そんな感じですね。僕自身は歌詞を書かない人間ですが、曲のイメージとして、例えばポジティブ・ネガティブとか、浮かぶ情景とか、そういうのは決めとかないといけないなという感じです。

 

運営 バンドが共同作業だという点が考慮された方法論ですね。それでは、音のレベルで「そうじゃない感」は、もうメンバー間でほとんどないような感じですか?

 

Toriki そうですね。セカンドアルバムが夏ぐらいに出るので、それを聞いてくださいって感じになっちゃうんですけど、アウトプットが見えたらほぼ作業みたいな感じです。もちろんそれが「思ってたよりもレベル低いよね」ということにはならなくて、そのラインは必ず超えるというか超えるまでやるんですけど、「何か全然違うものになったね」ということは極力ないようにしたいと思っています。

 

運営 バンドの他のメンバーもきちっと計画的に物事を進めるタイプですか?

 

Toriki はい。メンバー全員、多分僕よりもちゃんとしています。

 

運営 それバンドマンでは珍しいですよ。

 

Toriki 多分そうだと思うんですけど。メンバーみんなITスキルがあるというか、なんなら僕以外の三人の方が計画的にできるタイプなので、むしろ自分がケツ叩かれてる感じです。

 

運営 そうなんですね。一概には言えませんが、バンドマンには「納期絶対厳守」みたいな、またそれと表裏の計画的なスケジュールみたいな意識が希薄な気はします。Torikiさんは必ず返事とか納期を守るんですよね。それだけでこの業界では特殊スキルです。

 

Toriki 本当ですか(笑)。

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撮影:Jun Tsuneda

■楽曲制作過程の重み付けと手順

運営 RAYの話題に入ります。「RAYにおいてTorikiさんの曲はどういう位置づけか」という質問で、Torikiさんから見てどうかという話と、運営から見てどうかという話の二つをしたいなと思っています。さっきメンバーのインタビューではTorikiさんから見てどうかという話で「過剰」というワードと「山椒みたい」という例えが出てきましたが、他に何かありますか?

 

Toriki ずっと山椒っぽいと思っていて。それ以外のイメージはあんまりないですね。まあ過剰なんだなとは思いますが明確なイメージはないです。

 

運営 RAYの楽曲制作者はギター弾きが多くて、Torikiさんもギター弾きではあるんですけど、いわゆるギター弾きとは違うアプローチの作り方はしてるなと思っています。先程のインタビューの話題ともつながるんですけど、Torikiさんはギターから作るだけではないのかなと感じています。リズムから作ることもあるんだろうと踏んでいます。少し話題がそれますが、Torikiさんにとってメロディーはどんな位置付けですか?

 

Toriki メロディーは一番重要だと思っています。メロディーが入って初めて曲が生きてるなと感じるので。ただ、今までの作り方では基本的にメロディーは最後に入れていたのですが、作曲フェーズの中でもう少し早い段階で作るべきだったかなと思うことはありますね。

 

運営 作曲手順の話は、先日cruyff in the bedroomのハタユウスケさんともお話ししました。楽曲制作は大雑把に、下から作っていく(編曲→作曲→作詞)人と、上から作っていく(作詞→作曲→編曲)人がいる、という話で。Torikiさんはメロディーは大事だと思いつつも、どちらかというと下から派じゃないのかなと。

 

Toriki 下からというとギターリフとかそういうものからということですよね。RAYから発注されるイメージがそういう下から作りやすい曲が多いというのもあるかもしれないですが、下から作る傾向はあると思います。

 

運営 TorikiさんのRAYの楽曲の特徴はリズム感に見出されることが多いと思うんですけど、それは正しいと思っていて、Torikiさんの曲を、例えば普通のエイトビートでベタ引きのパワーコードみたいな感じにしてしまうと、多分印象は全然違ってノペっとしちゃうと思うんです。それを強度ある物にしているのはやはりリズムパターンなんだろうなという気がしていて。リズムパターンの方向から曲を作れる能力はRAYの制作者ラインナップの中でも特異なポジションだなというふうに思っています。

 

Toriki 他の作家さんやバンドマンがどう曲を作っているのかって、最近は特に誰とも話さなくなっちゃったのであまりよく分からないのですが、確かに言われてみればそうかもしれないです。

 

運営 Torikiさんペット飼ってるんでしたっけ?

 

Toriki 猫二匹実家にいますよ。

 

運営 猫とは喋ってますか?

 

Toriki 日本語で話すかということですか?話すか話さないかで言ったら話しますね。

 

運営 いや、誰とも喋ってないって言ったから、猫とは喋ってるかなと思って。

 

Toriki あーなるほど。全く喋ってないということはなくて、バンド仲間で飲みに行って「なんか最近こういう曲作ってるんだよね」的な話はしないということです。

 

運営 わかりました(笑)。

■4/4拍子を目一杯遊んだ「Blue Monday」

運営 Torikiさんの曲は過剰とか変わってるとか複雑とか言われますが、実は僕はあまりそういう印象がないです。僕のTorikiさんに対する印象も、Torikiさんのアウトプットに対する印象も、過剰と整然なら、整然の方が勝ってて、「Blue Monday」もかなりしっかりと作られているっていう感じがするんですよね。カチッとしてると言うか。

 

Toriki それは僕も同感です。なんか整然としたもの作っちゃったなと自分では思っちゃったりするんですが、改めて出してみると「なんかめちゃめちゃ」みたいなこと言われるんで、「あ、マジか〜そうすか〜」という感じはあります。


運営 変拍子みたいな感じで言われることが結構あるんですが、基本4/4拍子なので変拍子ではなくて、4/4拍子の中に変わったパターンが入っているっていう話なんですね。先程メンバーインタビューの中でダンスミュージックの話題が出ました。ダンスミュージックは大体四つ打ち(注:バスドラムを等間隔で4回打ち鳴らすこと。またそれによるリズム)で、その四つ打ちをどういうパターンで遊ぶか、みたいな感覚をクラブカルチャーで学んだという話です。「Blue Monday」もまさにそうだと思います。5分半の4/4拍子を目一杯遊んだらこうなりましたという感じで。5分半目一杯リズムパターンで遊び続けている。

■歌詞は書かないし書けない

運営 Torikiさんは明日の叙景でも歌詞は書かないんですか?

 

Toriki 基本的には書いてないです。メンバーの添削はするんですけど。こういう表現したくないとか、滑らかさ的にこういう言葉を選んだ方がいいんじゃないかとかいう話はするんですけど、基本的に自分で書けないですね。

 

運営 書かないんじゃなくて書けない?

 

Toriki 書かないし書けないという感じです。書けないので書かないって感じです。

 

運営 書こうとしたことはありますか?

 

Toriki 書こうとしたりしますけど、バンドメンバーがみんなで歌詞を作って、みんなで曲を作っていることを結構理想としているところがあるので。僕も歌詞書けたらいいなと思うんですけど、書けないんです。

 

運営 Torikiさん自身はそう思ってるかもしれないですけど、バンドメンバーはそうは思っていない、というようなことはないですか?

 

Toriki そうかもしれないけど、あんまりメンバーに対してアウトプットしてないんで。

■かっちり決めてもらった方がいいというタイプ

運営 次はそれぞれの楽曲の話をさせてください。RAYは「Blue Monday」「星に願いを」「17」を制作いただきましたが、いずれもリファレンスベースのオーダーです。それは他の発注系の楽曲でも同じ感じですか?もっとふんわりしてる時もありますか?

 

Toriki もっとふんわりしてる時もあります。RAYの発注が一番具体性があります。

 

運営 それ故のやりやすさとか、それ故のやりにくさってあったりしますか?

 

Toriki 基本的にやりやすいです。かっちり決めてもらった方がいいというタイプの人間です。

 

運営 ざっくりこんなの作ってください、という方が大変ですか?

 

Toriki 後で大体辻褄合わなくなってくるんですよね(笑)。やっぱりこうして欲しいみたいになるので。

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■RAYの各楽曲について①「Blue Monday」

運営 各曲ごとにお話しさせてください。最初Tokiriさんにメールをもらった時に参考音源として書かれていたのが、Torikiさんが一人で作ったIDM(Intelligent Dance Music)と明日の叙景でした。その時点で、ある程度変わったエレクトロニックなリズムが作れ、オルタナティブなギターが弾けるということが分かっていたので、それが組み合わさって、Blue Mondayのオーダーにつながったと思います。最初お願いしたいなと思ったイメージ通りのものを制作いただいたと思います。Aphex Twin的なIDMをベースにしつつ、やり取りの中で何回も出てきたのがCOALTAR OF THE DEEPERSですよね。まさにその折衷的な曲ができたなっていう感じで思ってますが、何かこの曲についてTorikiさんの記憶にあるようなエピソードはありますか?

 

Toriki 苦戦しましたね。最初はAphex Twinだけじゃ多分足りなかったと思うんですけど、お互いの情報出しの仕方がまだこなれていなくて、探り探り作っていたのが結構大変だったかな。最終的に何とか着地したっていう感じはあるんですけど。

 

運営 確かにこの曲はかなり難産だったと思うんですけど、それ以降の曲は結構コミュニケーションがやりやすくなったということが大きいと思っていて。

 

Toriki 共同作業のやり方をお互い理解したように思います。

 

運営 Blue Mondayはデビューライブでやった曲です。

 

Toriki そうですね。観に行きました。

 

運営 お披露目ライブは「どんなグループなのか」という品定め的な見方がされます。見に来たお客さんの印象の中でよく見かけたのが、難解なグループをやり始めようとしてるんだな、という感想で、その象徴となっている曲が「Blue Monday」というような反応でした。これは結構不思議で、さっきも言った通り確かに複雑だけれども、よほど難しいことやってるとあんまり思ってなくて。

   一方で、いわゆるアイドルポップスとか、いわゆるアイドルファン向けみたいな曲を最初はやらないぞという意志があったのは事実で。というのは、「Blue Monday」はアイドルカルチャーの外に持って行っても十分戦える曲だと思っていて。「おっ!」ってなると思うんです。その「おっ!」をスピード感を出して生み出していくことが最初のテーマでもありました。この「おっ!」は「なんだこれ!?」を含むので、難解だというリアクションもある種正しいと思うんですけど、それにしても、みんなが難解だと言うから。自分の中での「難解」の設定が再設定された気がしました。

 

Toriki 全く同じことを思いました。これで難解なんだみたいな。やっぱり四つ打ちのドンドンドンドンの方が良いのかな?4つで並べてないとダメかーみたいな感じはありましたね。

■RAYの各楽曲について②「星に願いを」

運営 Torikiさんに作ってもらった3曲の並びは、RAYがどういうところに、どういうものでアプローチしたいかというのが分かりやすく表現されているように思っています。「星に願いを」ぐらいまではいわゆるアイドルカルチャーの外側に届けることに重点を置いていました。でもちょっとやりすぎたような気がするので、アイドルカルチャーにもより親和的なものを作ろうとお願いしたのが「17」だった記憶があります。

   5月1日に「Blue Monday」をお披露目して、「星に願いを」も間髪入れず着手したんでしたでしょうか?

 

Toriki 夏に公開したのは覚えてるんですけど。

 

運営 じゃあもうお披露目時点では着手してそうです。

 

Toriki そうですよね。作ってたんだと思いますが、ちょっと記憶が曖昧ですね。割とさくっとできたような記憶があります。

 

運営 3曲の中で一番大変だったのはコミュニケーションの意味だと「Blue Monday」で、それ以外で、楽曲の方向性とかで困ったとかはあまりないんですか?

 

Toriki 「17」は結構音色が多かったのですが、今思えば単純にパソコンのスペックが低かったなというのはあります。それ以外はそんなに。

 

運営 僕は3曲の中だと「星に願いを」が一番ハードルの高いオーダーだったと思っています。いわゆる激情ハードコアっぽさって、ある程度聞き込んで、キモを分かってる人じゃないとまず作れないと思います。あんまりよく分かってない人が作った激情ハードコアアイドルソングだったら多分寒くなってただろうと。

 

Toriki 分かります。まあ、しょっぱいですよね。

 

運営 「Blue Monday」から次のオーダーで激情ハードコアをやって下さいと言って、これが出てくる器用さとか、アイドルカルチャーに片足突っ込んでる制作者の中ではTorikiさんしかいないと思います。「次激情ハードコア行きましょう」と言って「いいですね」と阿吽の呼吸だったことを覚えています。


Toriki そうですね。あと、僕は音楽を文化的に捉えているというのはあるかもしれないです。ただ単純に歪んでるギターというだけじゃなくて、何故「叫ばない激情ハードコア」がカウンターになるのかということなんですが。なんでそれがバズったり逆にバンドマンから反感を買うのかというのを理解した上でやれるので。

■RAYの各楽曲について③「17」

運営 「17」ってどのタイミングで制作に着手しましょうって話題になりましたかね?

 

Toriki 時系列は全く思い出せないんですけど、METAFIVEにしたいんだけどtofubeatsっぽくしたくないみたいな感じで送られてきて。なんかあんま踊ってたりイケてる感じじゃなくて、METAFIVEっぽくして欲しいみたいな話があって、「あーなんかわかるな」みたいな。でも「そんなtofubeatsってイケイケか?」みたいな気持ちもありつつ、「でもまあニュアンスは分かるな」と思いながら。

 

運営 多分それは僕の中では「ナードっぽさ」な気がするんですよね。METAFIVEのナードっぽさ。多分、この辺りからズンズンいってる曲が欲しいなっていう僕の中の気持ちが芽生え始めたんじゃないかなという気がしていて。あまり時系列を覚えていないのですが、ドッツの「サイン」というテクノ曲をRAYで披露したのもこの辺りの影響があった気がするんです。最初はメンバーがやりたいって言い出したんですけど。それと、吉田一郎不可触世界さんに制作してもらいたいなというのもこの辺りから考えてたり(注:後に発表される「TEST」に繋がる)。要するにズンズンしている曲が欲しいなというところで、一方でナードさの薄いパリピ感は避けたい、みたいな。

 

Toriki まあなんかハウス(注:ハウスミュージック。80年代後半シカゴ発のダンスミュージックの一ジャンル)じゃないってとこかもしれないですね。テクノだけどハウスじゃないよみたいな。

 

運営 次はどんな楽曲を作ろう、というような話もTorikiさんとはしているのですが、今は明日の叙景が忙しいということで。

 

Toriki そうですね。アルバムを作ってからしたいなという気持ちはあります。その時のテンション次第って感じですが。

■みきれちゃんの作詞について

運営 最後、曲について1つだけ。実はTorikiさんの曲って全部僕が作詞しています。どう思っていますか?

 

Toriki めっちゃ良いと思ってます。

 

運営 おお!初めて聞いた。「歌詞について何も言ってこないな」と思ってましたけど(笑)。

 

Toriki 本当ですか?いや、すごく良いなと思ってて、「星に願いを」はバンドメンバーで解釈について「これはどういう意味だろう」ってみんなで資料にまとめました(笑)。結果、なんか難しいねとはなったんですけど、僕のイメージだと物語とか文章の繋がりがある感じには思えなくて、一単語一単語が「かっこいい、響くな」というイメージがあって、そういうのが良いよねってバンドメンバーとの教材にしたんですけど。そういうイメージがあって、僕は「星に願いを」がすごく好きですね。

 

運営 ありがとうございます。

■視覚表現とワンマン「works」の演出

運営 先程メンバーインタビューで視覚的なものを見るのが苦痛と仰ってました。それについてもう少しお伺いできますか?

 

Toriki 苦痛というのはちょっと言い過ぎだったと思うのですが、例えばNetflixをずっと見ちゃったりすることが全くなくて、アニメとか連チャンで見るのが不可能なんです。映画とかはまだ「行くか」みたいな感じで行けるんですけど。

 

運営 進んで摂取しようとは思わない?

 

Toriki そうなんですよね。なので、視覚表現にはあまり明るくないです。チェックしたりはするんですけど、漫画、アニメ、映画などには結構疎かったりしますね。

 

運営 今回5月8日のワンマンではTorikiさんに演出を考えて頂いています。今どこまで話せるかという話はあるのですが、視覚表現をTorikiさんが考案して、それが実際に公演に実装される予定です。自分にとっての視覚表現や、演出についての思いについてはいかがでしょうか?

 

Toriki やはり結構難しいです。全然イメージがつかないし、自分の中でどういうものが良いのかあまり分からないので手探りではあるのですが、色々話している中でこれは面白いんじゃないかという感覚はあるので、上手くいくといいなと思っています。

 

運営 とても楽しみです。

 

Toriki ワンマンに向けてのインタビューなのに視覚が苦痛とか言っちゃった(笑)

今回の運営インタビューでは、楽曲内部の構造、楽曲制作の方法やスケジューリング、カルチャーに対しての距離感などに触れていく中で、それぞれの側面に通底するTorikiの「スタイル」のようものが垣間見えた。今後もTorikiの楽曲により、RAYの新しい一面が開発・発見されていくだろう。メンバーインタビューでは、「Toriki曲」の持つリズムの発想法や物語性、甲斐莉乃の視覚表現とのコラボレーションやTorikiの音楽的ルーツなどが語られている。未読の方はぜひお読みいただきたい。

 

Special Interview 楽曲制作者 Kei Torikiさん 〜メンバーインタビュー編〜

■インストにいかにメロディー的なものを入れ込むか

運営 Torikiさんにとってメロディーが重要という話がありましたが歌詞についてはどうですか?

 

Toriki とても大事だと思いますね。言葉のストーリーというのは音楽の時系列とは異なるものだと思うので、ストーリーとかは考えないんですけど。言葉から聞こえる連想するイメージはすごく僕は大事だなと思いますね。

 

運営 一方で、TorikiさんがRAYに初めて連絡をくれた時に、IDMのトラックをSoundCloudで送ってくれたり、YUKOさんのManhattan Attitudeの公演でも、インストトラックを提供しています。

 

Toriki そうですね。

 

運営 Torikiさんにとって、歌詞やメロディがどういうもので、その有無によって感じることや考えること、思いについて変化はありますか?

 

Toriki まあ変わるとは思うんですが、インストが好きとか歌モノが好きとか、歌詞はこういうのが好きとか、普段そこまで意識してないです。なのであまり特別なものとしては思ってない。もちろん好きな歌詞、好きなメロディーだったり歌メロだったりはあるという感じです。

 

運営 インスト制作では、メロディーに準ずるものをトラックに入れ込んだりしますか?

 

Toriki 入れます。入れないと画竜点睛ですかね。最後の1つ、あれが決まらない、みたいな。

 

運営 僕は実はインストを作ったことがなくて。作ったことがないことはないのですが、メロディーがただスコッと抜けただけって感じで。だからメロディーに準ずるものをどういうふうに入れ込めばいいのかという勘所が分からない感じなのですが、制作作法は変わってくるだろうなと思います。ただメロディーをキーボードでなぞれば良いだけじゃないと思っていて。

 

Toriki そうですね。

 

運営 そのメロディーに準ずるものを別の物にどう置き換えるかみたいな感性が、インスト曲のキモになるのでしょうか。

 

Toriki その話を聞いて思い出したのが、自分はインスト曲を作るときにシンセで結構メロディーを打ち込んだりするんですけど、例えばビブラートとか、低いドから高いドまで「ウーン」と上がっていく曲線の速さだったりを自分は結構細かく入れて、最終的に歌メロっぽくしたいというのがありますね。シンセで入れる時でもギターで入れる時でもそうです。歌っているような感じにしたいというのがあるので、やっぱり僕の中でも結構みきれちゃんと感覚が近くて、この歌のようなものがないと、なんか抜けた感じになっちゃうんですね。結局最初にボーカルっぽいものを入れたいんだなって言うのはありますね。

 

運営 「17」の間奏曲はものすごくメロディアスです。完全にメロディの代わりになっているものだという感じがします。

 

Toriki あとはギターのワウ(注:「ワウワウ」という音に変化するエフェクト)とかも歌の表現っぽいなと思います。

 

運営 これで僕が用意してきた質問は全てです。Torikiさんに割と迫れたんじゃないかと思います。インタビューを読んで、改めてTorikiさん曲を聞き返すと「ふむふむ」と思ってもらえるのでは。最後に何かありましたらお願いします。

 

Toriki 喋ろうと思えばいくらでも喋れますが、一旦こんなものかなと。

 

運営 ありがとうございました。

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