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Special Interview
レーベルオーナー/イベンター
こばけんさん
運営インタビュー編

場所を押さえ演者をブッキングするだけでなく、イベントを介した界隈の相互交流を通じて新規参入や流動性も図っていくイベンター。アイドルイベントの中でも存在感を持つ「エクストロメ!!」を主催するこばけんさんに、出会いから早5年となるRAY運営がインタビューを行った。対バンイベントを始めた経緯や現在の目論見にまで迫っていく。

■RAY運営との出会い

運営(現場マネジメント、テクニカル担当・小林) よろしくお願いします。まず僕たちとこばけんさんの最初の出会いっていつでしたっけ?

 

こばけん ドッツ(注:アイドルグループ「・・・・・・・・・」の呼称の一つ。RAY運営は以前・・・・・・・・・を運営していた)じゃない?大阪の心斎橋SUNHALLの一日10組から20組ぐらい出るやつ(注:エクストロメ!! FEST 2017.12)で初めてコンタクトを取ったような気がする。その時に歌に入るまですごい長い曲「Inventions」(注:ポストロックバンドMaseratiのカバー)をやったと思う。折角いろんな曲を聴きたかったのに「これ?」って(笑)。「初めて出演するイベントでやる?」って。

 

運営 最初の印象はそんな感じですか。最初はなんで呼ぼうと思いました?

 

こばけん 圧倒的な楽曲クオリティ、マイブラ(注:My Bloody Valentine。アイルランド出身のシューゲイザー/オルタナティヴ・ロックバンド)をサンプリングしたのかと思うくらいの強度があったから。今よりシューゲ割合が高かったような気がする。

 

運営 そうですね。ドッツは「ヤバ曲」みたいなのも多かったなと思います。当時ドッツが規模感的にどれぐらいだったかちゃんと覚えてないんですけど、このすごいラインナップのところにドッツを呼んでくださったという印象で、「エクストロメ!!」に出られるということがドッツにとって勢いを加速させたと感じています。

 

こばけん 褒めてくれるの?でもドッツを呼ぶ時は「良いのじゃないと出てくれないだろう」という頭はあったかも。「エクストロメ!!」で伸びたという感じじゃなくて、その前からキテたよ。

 

運営 そういう印象だったんですね。

 

こばけん 大阪でも5、60人ぐらい呼べてたと思う。その後デスコの大阪編(注:デスコトロメ!!!OSAKA)というのにも出てもらってて、この時にすごいお客さん来てたの覚えてる?だからウチの力じゃないです。ドッツの自力です。

 

運営 ありがとうございます(笑)。

■自然と象(かたど)られていくシーン

こばけん RAYは渋谷WWWでよく呼んでたかもしれないですね。nuance、クロスノエシス、tipToe.と。あの頃はまさにこの4組でシーンが出来てましたね。

 

運営 運営同士で勝手に仲良くなっていったというところもあると思うんですけど、そのシーンを作り上げるうえでメロンちゃん(RAY楽曲ディレクターみきれちゃんのTwitter上の名前)とかにアドバイスしたこともありましたか?

 

こばけん してない。覚えてない(笑)。

 

運営 メロンちゃんの話を聞いていると、こばけんさんの意見を参考にしていることが結構あるという印象で。

 

こばけん 「このグループが伸びてきてるよ」とか「こういう組み合わせでやったらお互いが良いんじゃない」みたいなのはするかな。最近RAYはいろんな界隈に出てもっと広がっていけそうなイベントが多くて良い感じだと思いますよ。

     先ほどシーンの話が出ましたけど、シーンというのは作ろうと誰かが意図することで作られているわけじゃなくて、自然と象(かたど)られている物じゃない?RAYとtipToe.が渋谷でたくさんやって、HAMIDASYSTEMも入って、そこで一つのチームみたいなね。やっていくうちに象られていって、nuanceやクロスノエシスが入ってきたり、色々形を変えて、また別の形に変わってくるみたいな。シーンを作るというよりは、面白さとか勢いとかを組み合わせてるうちに自然と大きな塊が象られていったみたいなイメージかな。

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■対バンイベントを始めた経緯

運営 アイドルの仕事の前は何をされてました?

 

こばけん メンバーインタビューでもお話ししましたが流通の管理職だったので、本当に全部のジャンルをやっていました。

 

運営 現場に出たのはアイドルが初めてでした?

 

こばけん そう。流通をやっていたら現場に出ることはまずなくて、入ってきた商品を発送して各社に送ってという仕事で。だからライブハウスに行くのは本当に趣味で休みの日だけだったかな。でも現場に出てからは、インストアイベントとか「エクストロメ‼」とか、他のイベントもあったりで、数えたら年間300現場行ってた(笑)。大体打ち合わせがイベントの前にあって、それが終わったらイベントに行ってたので、そういう計算になってます。

 

運営 すごい(笑)。先ほどのメンバーとの話でも、一番最初は「EXTREME IDOL TERROR!!」だったとお話があったんですが、やり始めたきっかけについて詳細を教えてください。

 

こばけん 偶想Dropを流通で担当してて「このグループをもっと押し上げるにはどうしたら良いかな?」と考えて、イベントしかないなと思ってやったのが最初。2015年から始めた「EXTREME IDOL TERROR!!」の時期で一番良かったというか名前がちょっとだけ売れたのが、大阪のイベントなんです。当時のタワーレコード梅田NU茶屋町店の店長から「EXTREME IDOL TERROR!!」を大阪でやりませんかって言われてやったのが「SELL NU IDOL?」で、SUNHALLや梅田クアトロを一緒に借りて、一緒にブッキングして開催したのが好評で。当時は一日20組ぐらい出るイベントは大阪でしかやってなくて、色んなグループの人から「大阪の人だと思ってました」って言われて。

     偶想Dropを売るためにインストアイベントを大阪でやりたかったんだけど、インストアイベントはお金がその場で入ってこないからなかなか遠征の費用的に厳しいってなって。じゃあ有料のイベントをやって、ちゃんとバックをもらえるようにしましょうって大阪でやったのが初めてですね。

 

運営 そうだったんですね。グループを売ることが目的だとすると、運営の感覚ではグループ単独でやっていこうという発想になるのですが、そうではなく対バンイベントとして作っていったのは他の目的もあったのでしょうか?

 

こばけん 最初は偶想Dropを売るためだったんだけど、時を同じくしておやすみホログラム、絵恋ちゃん、大阪のラウド界隈やNECRONOMIDOLなど、流通で関わるグループが増えてきたので、一つのグループに入りこむというよりまとまりとして押し上げていくという風にやってた。そんな感じで、流通で関わってたグループを売るためというニュアンスが最初は強かった。

 

運営 であれば最初は、イベントに参加するのも流通で関わっていたグループが主体だったんですか?

 

こばけん 主体だったし、呼ぶグループも界隈が強かったから、流通で扱うタイトルも同時進行って感じでどんどん増えていった。でもある時からイベントが独り歩きし始めて(笑)。それはどのポイントだったかなあと思って。2017年5月ぐらいかも。

 

運営 最初の頃と今とでは気持ち的に変わったところはありますか?

 

こばけん やっていることも含めてあまり変わらないかも。でも出るグループはガラッと変わって、もういないグループがほとんど。

 

運営 移り変わりの激しい世界ですよね。こばけんさんがアイドル関連の仕事を始めた頃に感じていたこととして、毎日いろんなことが起きてクリエイティブにすぐ反応があるという情報の多さや、スピード感の面白さを以前語られていた記憶があります。

 

こばけん そんなことを言ったのはすごい昔の話かも。でも本当に、いろんなバンド関係やシンガーソングライター関係からアイドルの世界に来た人からも、この世界に来て感じたのはまさにそこだって聞いたし、それは今でも変わらないね。むしろコロナ禍で加速したかもしれない。曲に対しての考察がみんな深くなった気がする。

 

運営 先ほどのメンバーインタビューでも話題になりましたが、MIXで盛り上げることからステージだけをしっかり観ることに現場の楽しみ方がコロナ禍で強制的に変わったという事情が大きいかもしれないですね。

■「売れる」ことと幸せになること

運営 この変化の激しい世界で、どのアイドルグループも「売れる」ことを指向してやっていると思うのですが、こばけんさんにとって「売れる」とはどういうことだと思いますか?

 

こばけん 超ムズいよね。運営さんとメンバーが一番幸せな形が「売れる」ということとも限らないじゃない?後で振り返った時に「この時やってて良かったな。成功したな」って思うのはLIQUIDROOMからZeppに行って埋めたぐらいの規模なんじゃないかな。まのちゃん、武道館行きたいですか?

 

甲斐莉乃 あんまり考えたことないけど、Zeppは憧れがあります。

 

こばけん 結愛ちゃんはどうでしょう?そもそも大きいところでやりたい願望はありますか?

 

内山結愛 会場についてはあまり考えたことがなかったけど、エゴサしなくてもファンの方々の感想が常に流れてくるぐらい届いてるって実感できたらと。

 

こばけん そうなんですね。しずくちゃんはどうですか?

 

琴山しずく 大きい会場でやりたいです。武道館は360度全て客席だし、あんな神聖な場所で出来たら最高だなと。

 

こばけん じゃあやっぱり何かしら大きい会場でやることに対しての思いがあるんですね。

 

運営 本人たちが幸せになることと大きい会場でやることにギャップがありうるということですが、大きな会場を埋めることを目指す以外にも、自分たちの好きなことをやっていくという道もあるのかなとは思います。

 

こばけん 最近は特になんだけど、アイドルの売れるまでの過程では動員が重視されがちで、そのための戦い方をしているグループが今多いですよね。曲もそのために作っているからみんながノりやすい曲だったり。というのが、主軸の考え方だと思うんですが、それに関して言うとRAYはまた違ってて、楽曲のクオリティやメンバーのパフォーマンスといった中身のコンテンツ力を上げていくことに注力してる。こういうやり方で伸びていけたら夢があるなと。

 

運営 もしこばけんさんが自分で運営をやるとしたらどうすると思います?

 

こばけん 自分で運営をやるなんて考えたこともないけどなあ。自分がやってて楽しいのじゃないとやれないよね。イベントとかレーベルの仕事もそうだけど、熱意を持ってやろうと思ったら曲とかグループのことを好きじゃないとね。

■アイドルが目指せる夢の舞台と地方の可能性

運営 先ほどのメンバーインタビューでは、ラインナップの組み方として1つ主軸のグループを決め、これから伸びそうなグループを1組チャレンジ枠として入れるというお話をされていました。「エクストロメ‼」はその絶妙なバランス感で、勢いがある強いグループが集まっているというイメージの確立と新興グループを伸ばして輪を広げていくことの両立に成功していると感じています。

   新しいところを発掘して輪を広げることは重要で、輪が広がること自体の面白さもあると思っていて、RAYも初期に、あまり共演したことのないグループを中心に集めた「PREDAWN」という対バンシリーズを主催していました。これまでの「エクストロメ‼」とは趣向を変えて、今より小さい規模感のグループを中心に集めたり、逆にもっと大きな規模感でやりたいなどは考えたりしていますか?

 

こばけん めちゃめちゃ考えてます。でもこれから伸びそうなグループばかりを集めたイベントはやるつもりがなくて、なぜかと言うとイベントを1つ組んだら序列が出来てきて、出始めのグループにはメリットがあっても、一番上のグループにとってもメリットのあるものを作らなきゃいけないじゃない?そうなった時に、その規模感に収まっていると一番上のグループにとっては「もうエクストロメ‼に出るメリットなくない?」ってなっちゃう。

     格という言い方はあまり好きじゃないけど、ちょっと趣向を変えた格上みたいなところとのツーマンとかはやりたいなと思ってて。そうならないように(格上が忌避しないように)どう説得して、かつイベントとしても面白いものにしていくか。「エクストロメ‼」が面白いって言ってくれる人達がいっぱいいてくれるのは嬉しいけど、新木場コースト(注:USEN STUDIO COAST。2002年に開館、2022年に閉館)でやられているような他のイベントと比べたら全然まだまだ小さいし、夢の舞台とも言い切れないし。もっと頑張らないと冒険できないかな。

 

運営 いわゆるフェスと呼ばれるような規模感ですよね。

 

こばけん これまではそういうフェスとは違った役割というか、自分の持ち場があってこの感じでやっていけたら良いかなと思ってたんだけど、求められているものが変わってきてるんですよね。100組とか出るイベントをやりたいというわけではないけど、もうちょっと規模感の大きなものを「エクストロメ‼」的なラインナップでやってほしいというのをお客さんにもよく言われるんですよ。その意味では前にやった福島のは良かったね。RAYの「サイン」良かったね。気持ち良かったよね。

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こばけん アイドルさんが目指せるような夢の舞台みたいなのを作る役割じゃないと思ってたけど、作らないといけないなと最近思ってはいます。動員を増やすということとはまた別軸で売れる道というのを考えたりすると、界隈、シーンの規模を大きくするために会場規模を大きくしたりだとか、リアルイベントじゃなくてサブスクとか、プロモーションでももう1つ2つ仕掛けを増やしていかないと収縮していっちゃうと思うんだよね。今すごくちゃんとしたことを言ってますね(笑)。

 

運営 そうですね(笑)。仕掛けで何か他に考えたりされてることはありますか?

 

こばけん 地方かな。北海道のタイトル未定とか静岡のfishbowlとか、昔あったロコドルブームとはまた全然違う質を持った良いグループが突発的に出てきていて、その辺の地方が繋がるようなシーンみたいなのが出来たら良いなと。で、RAYと一回静岡に行ったけど(笑)。

 

運営 そういう地方のグループが同時多発的に出てきている印象はありますね。

 

こばけん 急にね。それを見て、いろんな人が参入してきてくれたら面白いんだけど。

 

運営 新しい客層を集めるという意味でも、地方に可能性を感じたりしていますか?

 

こばけん 東京のグループにとっても地方はまだまだ掘り起こせると思いますよ。まあ負担があるからあんまり頻繁には行けないけど、まずは集合イベントに出てからツアーを組めるようになってって感じで、何回か行かないとね。

■イベンターこばけんの調整力

運営 イベンターの仕事は、ただイベントを組むだけではなく様々な力学が働いて成立している仕事だと感じています。こばけんさんには常に愛が中心にありつつ、一方でその板挟み的なものを冷静に見ている部分もあって、そのバランス感が本当に信頼できると感じているのですが、その点についてご自身ではどう思われますか?

 

こばけん 他のイベンターさんがどういう誘い方をされてるのか分からないですが、うちは曲を聴いて現場で何回か観てから呼んでいて、ある程度のシーンも出来てるというのはあるけど、バランス取れてるのかなあ?

     RAYに来るオファーもほとんどそうだと思うんだけど、「〇〇を誘ってます」って言っていて、いざ決定稿ですって来たら誘ってたとこ全部だめじゃんみたいなことない(笑)?

 

運営 結構ありますね(笑)。やっぱりラインナップが良かったら出たくなるので、そういう作戦なのかと思うことはあります(笑)。

 

こばけん それはまあ実際に誘っててダメだったんだとは思うんだけど、オファーされてるグループはみんな並びを見て判断したいって考えてるんですよ。でも全グループが並びを見てたら1個も決まらないわけですよ(笑)。だから、このグループが出るならここは出るって言ってますよとか、逆にここが出なかったら断っても良いから出てって言ったりとか、そういう細かいニュアンスをちゃんと伝えるようにはしてます。

     あとは、本当にダメだったら「ごめん、全部ダメだったから全部イチから組み直すけど、スケジュール的には空いてますか?」という聞き方をして、出るって言うグループもあれば出ないって言うグループもある感じ。それを短期間でギリギリの中でやっているから常に心が休まらない。でも穴空けちゃいましたみたいな感じで事故ったことないんですよ。

 

運営 それは本当に凄いと思っています。その辺りの調整はこばけんさんの能力というところもあると思うんですけど。

 

こばけん 能力じゃなくて、運(笑)。

 

運営 運と言うよりは、「こばけんさんが困ってたら出よう」みたいなのが運営にも絶対あるんですよ。だから、最終的にはこばけんさんの人柄だったり信頼感が決め手になっているんじゃないかと。

 

こばけん RAYにはもう何度も助けられてますよ。

 

運営 いや、もう僕らとしてはいつも助けられているなという感覚なんです。今後ともよろしくお願いします。

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■ライブ以外のイベント構想

運営 そろそろ終わりの時間が近づいているということで最後の話題に行きます。ライブ以外のイベントで、例えばバラエティがやりたいってずっと思っているんですよ。

 

こばけん それは皆さん言ってますね。

 

運営 イベンターさんのブッキング力でアイドルと芸人を呼んだイベントをやってもらいたいなということも最近考えてたりするんですけど、そういったライブ以外のイベントは構想にあったりしますか?

 

こばけん バラエティはみんなやりたがってますね。具体的にはないんですけど、理想はジャニーズなんですよね。ジャニーズの人気もバラエティの力が大きいと思うので。

 

運営 そうですね。例えばAKBグループでも、楽曲から入るのではなくテレビでバラエティを見て、その後で曲を聴いてファンになっていくという流れもあるので。なにか今後出来たら良いなみたいなのはありますか?

 

こばけん 構想には出るんですけど、大体立ち消えるんですよね。バラエティとはちょっと違うかもしれないけど、今のアイドルが往年のアイドル曲を歌う企画みたいなのはあったのだけど、具体的な話にはならず。

 

運営 めちゃくちゃ良いですね!昭和歌謡やりたがるアイドルの子も増えていると思う。

 

こばけん 今ひっぱり出せてない在宅中高年をね。全然ピンチケが来なくなりそう(笑)

 

琴山 昭和歌謡めちゃめちゃ好きです。

 

こばけん そうなんですね!ぜひやりましょう!

 

甲斐 月日ちゃんとコットは昭和歌謡好きですね。

 

こばけん 月日ちゃん好きそうですね。やりましょう!

 

運営 (笑)。もう終わりの時間ですね。ありがとうございました(笑)

今回の運営インタビューでは、RAY運営との出会いから対バンイベントを始めた経緯、ブッキング調整のための様々な工夫、「エクストロメ!!」の次の展開の可能性まで伺った。ラインナップ自体だけでなく、こばけんさんの人柄や滲み出る愛情が、演者にイベント出演を希望させている。メンバーインタビューでは「こばけん」というキャラクターやコロナ禍におけるイベンターの悲喜こもごもについて、またレーベルオーナーとしての仕事や楽曲流通の仕組みなどが語られている。未読の方はぜひお読みいただきたい。

 

Special Interview レーベルオーナー/イベンター こばけんさん 〜メンバーインタビュー編〜

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