
Special Interview
レーベルオーナー/イベンター
こばけんさん
メンバーインタビュー編
RAYの出演するイベントを数多く手掛け、RAYの所属レーベル「Lonesome Record」のレーベルオーナーでもあるこばけんさん。アイドルファンからも親しみやすいキャラクターが愛され、主催する「エクストロメ!!」はライブアイドルシーンの重要な一角を形作っている。今回はRAYメンバーがこばけんさんに、イベンターの悲喜こもごも、ファンからは見えにくいレーベルオーナーとしてのお仕事まで伺った。
■「RAYにはちょっと良いお菓子を準備する(笑)」
琴山しずく(以下琴山) 5月8日RAY 3周年ワンマン「works」では、いつもRAYを支えてくださっている方々にフィーチャーしています。今回はいつもお世話になっているこばけんさんにインタビューさせていただきたいと思います。
メンバー一同 よろしくお願いします。
こばけん お願いします。
琴山 こばけんさんはイベンターさんとレーベルオーナーさんということですが、それぞれの職業について教えていただきたいです。
こばけん イベンターはまず会場を押さえて、皆さんをブッキングしてイベントの概要をまとめ、本番ではイベント全体を制作する仕事です。レーベルの方は、RAYさんみたいに音源をリリースするため、必要なコード(注:市販メディアに付けられる規格品番)とかいろんなものを集めたり、CDをプレス(注:最初に制作した原盤を元に大量生産する製造方法)するため素材を固めて(注:まとめて)プレス工場に出します。それをタワーレコードさんとかamazonさんとかHMVさんとかに流通しつつ、一方でアイドルはインストアイベントをやるので店舗さんとやりとりしながらイベントを組んで告知をして、実際のイベントを運営するっていうお仕事です。
甲斐莉乃(以下甲斐) すごい。
こばけん カッコいいでしょ。見直した?でもみんなもよく分かってなかったよね?「イベントにもいるし、インストアイベントにもいるけど、この人なんだろう」って思ってた?
内山結愛(以下内山) いや、常に私たちがライブをする時には必ずいるぐらいの存在だと思ってて。だから新宿LOFTでライブをする時に、新宿LOFTとこばけんさんが結び付きすぎているから、こばけんさんがいないと「あれ今日ってエクストロメ!!(で他の現場があるからいない)?あ、違うか」みたいになるぐらい。本当にライブではお世話になっています。
RAYのライブに関わるに当たって、RAYだからしていることはありますか?
こばけん RAYだからしてることあるのよ。まず音響を乗り込みにするのはマスト。何故かというと、大体アイドルイベントとかだと会場に音響さんがいて、その音響さんがオペレーションするんだけど、RAYの場合は会場の音響さんだと難しすぎて出来ないですよ。前のグミさんの(インタビューの)時も言ったかもしれないけど、ギターの帯域とみんなの声の帯域が被るから、オケを上げちゃうとハウっちゃうでしょ。それを絶妙なバランスで調整しつつ、なおかつ皆さんの歌割りを把握してないといけないってなると、乗り込みがマスト。お金かかってるのよ(笑)。
内山 そのおかげでいつもRAYは気持ち良くライブが出来るし、ライブに来てくれた皆さんも「良い音だ」って楽しんでくれてるので(ありがとうございます)。
こばけん それとちょっと良いお菓子を準備する(笑)。
内山 そうなんですよ。
甲斐 もう毎回毎回すごい。いつもありがとうございます。最初の頃はRAYの方からも毎回あげてましたけど、最近なくなって。
こばけん 全くくれなくなった。当たり前だと思ってた(笑)。
内山 あとお弁当も印象的で、前回静岡のイベントの時にメロンちゃん(RAY楽曲ディレクターみきれちゃんのTwitter上の名前)から、こばけんさんからのメッセージとして「お弁当が11時に来るからお腹空かせて待っててね」みたいなメッセージをもらったんですけど、お弁当選びでも意識してることにはありますか?
こばけん お弁当を出す時は、朝から夜までの現場の時、二回しとかそういう時に出すようにしてて。静岡だったらその土地の名物的なものを出してます。この前のあみ焼き弁当とか。


琴山 あみ焼きって名産なんですか?
こばけん 分かんないけど、「どれがいいですかね?」って箱(注:ライブハウス)の人に聞いて、女の子だから重たいものじゃなくて特典会の前に食べても臭くならないものって考えて出てきたのがあれだった。
琴山 めちゃくちゃ美味しかったです。
こばけん 良かった。
内山 ワンマンの時も毎回お弁当がめちゃくちゃボリューミーで。
こばけん クアトロでのワンマンはウチだけど、他は田村さん(注:イベンター、制作。RAYのワンマンに多く関わり、インタビューも後日公開予定)。
内山 そうなんですね。
こばけん そう、あれは制作田村さん。
内山 いろんな方々が……。
こばけん そう、いろんなイベンターさんがね。RAYだからやってることはそんな感じです。
内山 ありがとうございます。
甲斐 たまにリミスタ(注:オンライン特典会を行うことができるプラットフォーム。Limited Stand)の特典会でRAYの運営さんがいなくてこばけんさんがいてくださっている時があって、すごくRAYのことを見守ってくれてるなって。
内山 チェキ撮影もしてくださって上手なんですよね。
こばけん それはRAYだけなんです。事務所のスタッフが来なくて任される(笑)。リミスタの時に毎回出してるどら焼きは外苑前の有名な所。あれ、美味しいでしょ。
内山 本当に餌付けされてます(笑)。
■イベントの基本的な組み方と難しさ
甲斐 ここまで具体的にRAYにどう関わってくださっているかを教えてもらったと思うんですけど、仕事をしていて難しさだったりやりがいだったりを感じることってありますか?
こばけん イベンターとしては、もうめちゃくちゃ難しいんですよ。ちょっと大きいイベントをやると必ず病む。っていうのは、これは僕だけかもしれないんだけど、ほぼ「これをやりたいから会場を貸してください」という感じじゃなくて、会場の方から「何かやって」って言われて。言われたものを集めて「じゃあ何やろうかな」みたいな感じで組み始めるんだけど、大体時間がないんですよ。
内山 緊急開催とか。
こばけん そう、緊急開催(笑)。「じゃあこういうのが面白いだろう」と思ってブッキングを進めても、なかなか思い通りに行かなくて。「一つ決まったから、このグループを元にして組むならどれがいいかな」っていうのも一回のイベントをやる毎に何十パターンも考えながらやって、最終着地して緊急開催みたいな。
内山 なるほど。しかも今のご時世だと突然グループさんが出られなくなった場合とか、代わりに(他のグループを探す)、とかもあるから大変だなと思って。
こばけん イベントのフライヤーがバツ、キャンセル、ピンチヒッターで、また他のグループが出られなくなったらバツ、ピンチヒッターみたいに(何回も変更して)。それも大変です。
甲斐 あのフライヤーはどなたが作ってるんですか?
こばけん (自身を指差す。)
甲斐 え!こばけんさんが作ってるんですか?すごい。
こばけん iPhoneの無料アプリで。
メンバー一同 iPhoneで!?
甲斐 iPhoneの比率があると思うんですけど、ちょうどiPhoneにハマる形で全画面ですごい見やすいなって。
こばけん 良かった。本当はデザイナーさんに毎回頼んでたんだけど急すぎて、いつもブッキングして決まってタイムテーブルをバーッて書いたらもう30分後には告知、みたいな感じになってるから、人に頼んでたら間に合わない。
琴山 その時その時によって違うと思うんですけど、5組の出演者を必要としていたら何組ぐらいにお声掛けするんですか?
こばけん これはね、本当にポンッて全部決まる時もあれば、20組に声を掛けても決まらない時もある。だから組み方としては、自分の中では中心になるグループが一つあって、それに紐づいていくグループ(を組んでいく)みたいな考え方かな。それで合うところを頭の中で(組んでいく)。新規のグループさんも出来る限り入れるようにしています。
琴山 じゃあまず、こばけんさんの中でのメインのグループを決めてから(組んでいく)。
こばけん RAYとかね。
内山 ありがとうございます。嬉しいです。


■コロナ禍の苦労、思い出深い千葉のイベント
琴山 コロナ禍でライブが出来ない状況が続いたと思うんですが、イベンターさんという職業から見たコロナ禍での苦労話はありますか?
こばけん コロナ禍はね、本当に苦労したよね。みんな一気に配信イベントをやり始めたけど、配信はお客さんが飽きるのがすごい早くて。とにかく推しに直接会えないみたいな状況。配信がちょっと食傷気味になってて、かつリアルのイベントがやれないというこの時期、この間の時期が一番キツかった。
コロナ禍で初陣切ってやったのが、千葉のホールでのイベント。あれが最初のやつだけど、あれもめちゃくちゃ大変だった。お客さんもピリピリしてるし、チケットも即完売しちゃうし。
甲斐 千葉のホールを押さえた時って、普段こばけんさんが開催しているライブハウスでのイベントとはちょっと違った形になったとは思うんですけど、ホールは大変だったんですか?
こばけん 謎だった?「何で千葉のホールなんですか?」ってプロデューサーとかに聞いた?謎に思った?
甲斐 はい。
こばけん 前から「ここでやりませんか?」みたいな話があったんだけど、コロナでもなかった時期だったし、わざわざ千葉の端っこまで行ってもお客さんが来ないなと思って、ちょっと保留にしていて。(コロナ禍になって)都内のライブハウスでやれるような状況じゃなかったから、「どこかないかな?」と思ったときにハッと思い出して、「そうだ、千葉に行こう」と思って。
琴山 京都みたいな(笑)。
こばけん それで千葉のホールでやったんです。やって良かったのは、ホールってすごい会場費が安いんですよ。
琴山 そうなんですか?逆だと思ってました。
こばけん ああいった県とか行政がやっているようなホールってめちゃくちゃ安いんだけど、基本的にその空間があるだけだから、本当はスピーカーとかPA(注:音響機器)のシステムとかを全部持ち込んでやらなきゃいけないから、莫大なお金がそっちでかかるんだけど。たまたま買い換えたばっかりのスピーカーがそこにあって、それが割と大出力で大きい音が出るやつだったから、採算的にも行けるって。
内山 あの時もスタッフさんの数が多いなって思ったんですけど。
こばけん あれは制作のスタッフが多かったんじゃなくて、コロナ対策のセキュリティスタッフですね。幕張メッセとかを警備しているような会社が入って、ちゃんとマスクをしているかの確認とか、消毒をやったりとか、何とか水みたいなのを撒いたりとかしているスタッフが多かったんですね。

内山 そういうスタッフさんの派遣みたいなのには、こばけんさんは関わっている?
こばけん イベントって大きいのになるとイベント主催者っていうのがいて、それとは別に制作会社っていうのがある。セキュリティとかもぎり(注:入場券の半券をもぎ取る人)とか人がいっぱい必要な時は、イベント制作の方に頼んでいます。
千葉、良かったね。お客さん泣いてたね。
内山 お客さんも「やっと(現場でライブを観て直接メンバーに会えた)」って。私たち自身も「やっと」という感じで。
こばけん 対面のイベントってどれぐらい振りだったんだっけ?半年とかかな。
内山 それぐらいだった気が。思い返せば、RAYのワンマンライブ(注:1stワンマンライブ「birth」)も配信だったなと思って。
こばけん 確かその後渋谷WWWで単独やったよね。
※実際には渋谷WWWでの単独公演が2020年7月25日、1stワンマンライブ「birth」が2020年8月24日開催のため「birth」の方が後。
内山 そうですね。
こばけん それが千葉の後……調べてくればよかったね。
内山 時系列が……(笑)。
こばけん そんな感じでイベントをやってます。
■コロナ禍で伸びるアイドルグループ
琴山 コロナ禍で大変な苦労があったと思うんですが、逆に新しい可能性だったりってあったりしましたか?
こばけん (コロナ禍で)いろんなことが制限されるようになったじゃない?これまではフロア主導っていうか、フロアでお客さんたちがどうMIX入れるか、ここでリフトしてどう盛り上げるかみたいな感じだったから、とりあえずフロアが沸く曲みたいなのが求められてて、より現場が盛り上がるグループが人気出てたと思うんだけど。
(でもコロナ禍で)動けなくなって声も出せなくなったらステージの上だけがそのグループの価値みたいな感じになって、パフォーマンス力とか楽曲の強さとかが評価されるようになってきたと思うのね。で、そういう楽曲の強さとか、パフォーマンスの強さで言うと、やっぱりいわゆる「楽曲派」と言われている人たちやRAYは強かったと思う。「エクストロメ!!」によく出ている人は、やっぱり曲とパフォーマンスが強いから、RAYもそうだけど逆に伸びているグループが多いような気もする。
内山 確かにお客さんを煽らせるような曲が多いアイドルさんは(コロナ禍の間)どうしていたのか気になります。あまり対バンする機会がなかったから、どうしていたんだろうと思って。
こばけん 煽れないからね。
内山 そうですよね。アイドルさんもファンの方々も結構ストレスが溜まりそうだなと思って。
こばけん だから良かったわけじゃないけど、そんなに窮地になってないっていうか逆にチャンスが多かったかなって。どんどん伸びてるグループもコロナ禍でガンッて伸びたグループもいっぱいあるし、やっぱりどんな状況下でも動きを止めずにパフォーマンスを磨いていたグループはやっぱり強かったなって。RAYもね。
内山 絶対褒めてくれる(笑)。
こばけん 否定しないよ、絶対否定しない。
■「こばけん」のキャラクターはどう生まれ、どう育ったか
甲斐 これまで苦労した話や新しい可能性の話をお聞きして、その中でもRAYを見守って下さっていて感謝の気持ちでいっぱいなんですが、先ほど少し触れていたやりがいの面で言うとどんなことがあるんですか?
こばけん さっき言ったみたいにイベントを作るまでは地獄の苦しみだけど、いざやってみたらお客さんが喜んでくれたりとかすごい良いライブをみんながしてくれたりとかすると、「次またいつやろうかな」って切り替えられる。ファンの方々が終わった後もTwitterで「良かった」とか結構言ってくれたら「やって良かったな」って。
内山 私達と一緒です。アイドルです。そんなアイドルのこばけんさんにお聞きしたいことがあります。ファンの方々もみんな親しみを込めて「こばけん」と呼んでいると思うんですけど、いつの間にかキャラクター的存在になったのか、それともあざとい感じですけど、戦略的に「こばけん」というキャラクターを根付かせようっていう気持ちがあったのかっていうのをお聞きしても大丈夫ですか?
こばけん まずTwitterアカウントを作らなきゃいけないっていう時に、本名にしようかなって思ったんだけど堅苦しいし。基本的に年上の人とかって怖いじゃん。自分も若い時におじさんが怖かったから、とりあえず怖がられないようにしようと思って、堅苦しい株式会社〇〇じゃなくて「こばけん」ってやったのが最初。
そこからは狙ってたわけじゃないんだけど、偶想Drop(注:2014年に結成された女性アイドルグループ。2017年解散)っていうライブとかでめちゃめちゃにやるグループや、絵恋ちゃん(注:2011年からソロで活動する女性アイドル)とか割と破天荒な人達がいっぱいいて、そういう人たちにイジられたり表に引きずり出されたりしてたのね。それで「単にビジネスとしてやってる人じゃなくて、個人的に好きでやってる人なんだな」という認知が広がったのかなっていう感じ。

イベントで絵恋ちゃんにバリカンで刈られ、坊主にせざるを得なくなったこばけんさん
内山 キャラクターを確立するに当たって、良かった部分とか悪かった部分はありますか?
こばけん すぐナメられる。Twitterを見ていたら、「こばけんのくせに生意気」って(笑)。
内山 見たことあります。
こばけん そうそう、あるでしょ。
琴山 ナメられるっていうのはお客さんに?
こばけん そうそう。でもそれも親しみを込めて言ってくれてるんだなと思いながらやってるけどね。
内山 愛があります。
こばけん そうそう。だから戦略的にというか自然になりました。音響のグミさんもインタビューで言ってたかもしれないんだけど、アイドルさんの周りに居る大人や関係者って、まず怖がられないようにするのが一番大事だと思ってて。怖がられちゃうと何も伝えられなくなっちゃうじゃない?だからフランクだったり、ナメられるぐらいの方がお客さんにもちょうど良いかなと思ってやってます。
■楽曲が流通するために関わる人たち
甲斐 そうなんですね。こばけんさんはイベンターだけでなくレーベルオーナーとしても関わってくれていて、初歩的な質問になるんですがレーベルとレコード会社っていうのはどういった違いがあるんですか?
こばけん ちゃんとした定義があるわけじゃないんだけど、やってることは変わんないです。インディーズで「僕たちレコード会社です」って言っているところはなくて、インディーズの人はみんなレーベルって言っててメジャーの人はレコード会社と言ってて。そのレコード会社っていうのはいろんなレーベルを持っていて、それの集合体がレコード会社。Universal(Music LLC)とかキングレコード(株式会社)とかそういうメジャーのメーカーのことをレコード会社って言ってると思います。
RAYの場合はLonesome Recordっていうレーベルなんだけど、うちの会社ではLonesome Recordの他に五十ぐらいレーベルがある。みんなバラバラでジャズとかも多いんだけど、それをまとめているの株式会社disk unionのDIWっていうメーカーがレコード会社になります。
甲斐 ありがとうございます。レーベルをまとめているのがレコード会社。
こばけん 超ざっくり言うとそうです。
甲斐 わかりました。楽曲をCDで出したいとかサブスクで配信したいとか思った時に、どのような人たちが関わって流通をするんでしょうか?
こばけん まずサブスクの場合は、音源を作るところから関わるか、作っているもの流通する段階から関わるかっていうのはその作品次第っていう感じなんだけど、RAYの場合は事務所さんの方で完全に作った音源をいただいて、それをスペースシャワーとかその他の配信の流通会社を通して、Apple MusicとかspotifyとかLINE Musicとかいろんなところに配信されていく。いっぱい(再生が)回るようにサブスク担当というのがレーベルの中にいて、その人が訪問したり資料を送ったりして、「なんとかこのプレイリストに入りませんかね?」とか、「こんな人が曲作ってるんですよ。RAYヤバいでしょう?」って営業をしてくれて。
パッケージ(注:CD)の方は同じく音源をもらって、曲ごとにコードを振ったり、作品ごとにJANコードっていうコードを振ったりいろんな事務的な処理があって、それを含めたものをパッケージ化してプレス会社に投げて。そこで出来上がった商品を会社に入れて、そこからメジャーの会社が使っているCDやレコードを全国に配送する会社を通して、全国にRAYのCDが流通されていくっていうシステムですね。だからCDを作るまでに関わっている人で言うと、入稿データを整える人、コードを取る人、出荷・配送をする人。あと、アイドルだとやっぱりインストアイベントがメインだから、「こういう展開をしてください」とタワーレコードさんに営業したり、あとは空いている日を聞いて、インストアイベントで「どういう特典内容にしましょうか」みたいなことを決めて文章を送って告知をして、当日そのイベントを回すっていうことをしたりする人がいます。大きい会社だとそれぞれに担当がいるんだけど、うちだとほぼ一人でやってて。

内山 えー!
こばけん 先月ぐらいからサポートスタッフが入って、最近は2人でやるようになってる。
■情報収集は新木場コーストの喫煙所で
琴山 常に人と関わっていらっしゃると思うんですけど、昔から人とコミュニケーションを取るのは得意な方でしたか?
こばけん 得意じゃなかった。けど人と話すのは好きかも。めちゃくちゃダル絡みされてるもんね、みんな(笑)。やっぱり人と関わるのが好きな人じゃないと難しいかも。応援や協力をしてもらわなきゃいけないから。
琴山 そういうところからこういう仕事を始めようと思ったんですか?
こばけん 元々CDとかレコードを売るdisk unionという会社のお店のスタッフだった。お店のスタッフから店長までやって、そこから流通の部署に異動して今レーベルに移って今のことをやってるという感じです。
流通の部署のトップだったんだけど、やっぱり管理者だから「現場行きすぎじゃね?」って言われて。いろんな現場で動いている人を管理して、予算を組んだりとかしなきゃいけない仕事だったけどほぼほぼ現場にいたし、要はアイドルの仕事を管理の業務の片手間でやっているような感じだったんだけど、会社にとっても良くないのでもっと現場の仕事がやれる部署に異動したっていう。その方が全力でアイドルの仕事が出来るかなという感じです。
琴山 ありがとうございます。イベンターさんのお仕事をやっていて、「一番これは成功した」とか「一番失敗してしまった」みたいなのはそれぞれありますか?
こばけん 難しいなあ。成功と失敗が同じになっているケースが多い。福島とかさっき話に出たホールとかって、やっぱり採算的なリスクが大きい。でも何かやらなきゃいけない意義みたいなものがあって。だから、ほぼ採算度外視でやっててイベント的には大成功、でも蓋を開けたら全然儲かってないみたいな。勝負というかチャレンジというか、そういうのは大体採算的に見合わないものが多いけど、やらなきゃいけない。失敗に見えるけど、でもザッと見ると自分の中では大成功みたいな、そういう感じ。
内山 成功と失敗がいろいろあって、大変なこともたくさんあると思うんですけど、「エクストロメ!!」のラインナップで、こばけんさんがチョイスしたアイドルさんとかにファンの方々も一喜一憂してて。「誰々が入ってない!」とか「来た!この組み合わせ!」みたいなツイートをよく見かけるんですけど、こういうファンの方のちょっとしたつぶやきのリクエストとか、ファンの人と直接話して受けた意見とかで、組み合わせを決めることもあるんですか?
こばけん さっき言った一喜一憂で「何でこれが入ってないんだ」みたいなのあるけど、大体誘って断られてる(笑)。オタクの人ってめちゃくちゃ察しが良いっていうか、業界の勢いとかどこのグループが来てるとかね。センスも横のつながりも強いから、「そろそろこのグループが出るんじゃないか?」みたいなのは薄々察してて、入ってなかったら「なんで入ってないんだ」みたいになるけど、大体たまたまスケジュールが合わなかったりで出られないことが多い。情報収集はTwitterももちろん見るんだけど、Twitterに真実はないんです。
内山 本質ですね(笑)。
こばけん Twitterを見ていても真実なんか全くない。どこで情報収集するかっていうと、自分で対バンイベントとか20組とか出演するやつに行ってみる。行ってみてその場の空気やフロアの感じと、特典会の列の長さとか、どこのオタクがどこに流れてるとかっていうのも見ています。
フォロワーが今は6000人行かないぐらいいるんだけど、その中の500人ぐらいはなんとなく分かる。300人ぐらいは名前が分かって、100人くらいは名前とアカウント名が一致している。
内山 もうアイドルよりもエゴサしてますね(笑)。
こばけん ずっとフロア見てる。「あー来てる来てる」って。
内山 みんなこれ聞いたらビックリしますよ、見られてるって。
こばけん 実際、現場で話をするのも100人ぐらいかな。
内山 すごい。友達100人じゃないけど。
こばけん そうそう。そんな感じで対バンイベントに行ったりとかもするし、あと一番生の声が聞けるのが新木場コースト(注:USEN STUDIO COAST。2002年に開館、2022年に閉館)の喫煙所。お酒も入ってるからみんな好きなことしゃべってて。その新木場が無くなっちゃったから、どうしようかなと思って。
内山 新たなスポットを探しに。
こばけん でも感付かれる時もある。「あ、この人、もしかしてこばけんじゃね?」みたいな。
そこ(生の声を聞けるスポット)でしれっと聞いてて、得た情報を元に(イベントを考える)。でも一番多いのは、現場で話し掛けられます。「このグループがキテるから絶対呼んだ方がいいですよ」ってすごい売り込みがある。
内山 いろんな形で影響されてイベントが出来上がって。
こばけん あと熱心な運営さんだとお金を払って「エクストロメ!!」に来てくれて、「こういうのやってるんです」って言ってくれる人もいるの。それで曲とか聞いてみて、合いそうだなってなったら(イベントに)呼んでみたり。
琴山 物販とかでよく「エクストロメ!!だから来たよ」みたいな。
こばけん そんな人いますか?
琴山 めっちゃ言われます。「エクストロメ!!だから来たんだね」と言ったら「そうだよ」みたいな。そういう声はこばけんさんに届いてるのかなって。
こばけん 特に大阪のサンホール(注:心斎橋SUNHALL。1987年開館、2014年リニューアルオープン)とかなんだけど、一日20組ぐらいのイベントをやって、受付でお目当てを聞くじゃない?その時「どこのグループも知りません」みたいな人も。「エクストロメ!!が面白いって聞いて、とりあえず来ました」みたいな人が十何人ぐらいは常にいるっていう感じ。
内山 「エクストロメ!!」ファンみたいな。
こばけん (アイドルが)いっぱい出るので、「エクストロメ!!に行けば何か面白いところが見つかるんじゃない?」みたいな人がいてくれるのかなってちょっと思ってます。

■「エクストロメ!!」の由来とラインナップの目論見
甲斐 今までずっと自分が気になっていたことで絶対聞きたいと思ってたことなんですけど、「エクストロメ!!」というタイトルは誰がどういう意図で付けたのか、経緯が知りたいです。
こばけん 一番最初にやったイベントが鹿鳴館だったのね。その時は「EXTREME IDOL TERROR!!」っていうタイトルだった。ちゃんとドロップ幕(注:ステージやライブハウスの壁面に張る布製の旗)も作って、大阪でもそのタイトルでやったんだけど、アイドルさん達がMCで一人も言えない。sora tob sakana(2014年に結成された女性アイドルグループ。2020年解散)とか生ハムと焼うどん(2015年から活動していた2人組の女性アイドルグループ。2017年より活動休止)とか、当時の現役高校生でも読めないってなったら、「このイベント名ダメじゃん」となって、どうしようかなと思った。そんな時に、当時偶想Dropに在籍してて、グーグールル(2018年に結成した女性アイドルグループ。2021年に解散)とか今あんちろちー(2021年から活動中の女性アイドルグループ)をやっている(瀬戸)杏奈ちゃんっていう子が、完全にライブで読めなくて「エクストロメへようこそ」って言ったのね。
内山 そこから生まれたんですね!
こばけん 「あ、もうこれでいいじゃん」ってなって、それで「杏奈ちゃん、それもらっていい?」「いいですよ」ってもらって、タイトルになった。
甲斐 すごい良い話。
こばけん 良い話だった(笑)?それが由来です。
甲斐 先ほど「エクストロメ!!」でラインナップをする時に、1組決めてそこから繋がりのあるグループさんを決めていくとおっしゃっていたんですけど、相性の良さ以外にも少し変わった組み合わせにしようとか、「こういうライブにしよう」っていうコンセプトとか、一回一回決めていることはあるんですか?
こばけん あるんです。さっき言ったみたいに、最初に思い描いていた通りになることは滅多にないけど、共通してあるのは主軸はブレずに1組入れつつ、チャレンジ枠みたいな、今はちょっとまだ人気がないけどこれから見つかる可能性があって、見つかったら広がっていくんじゃないかと思うグループを必ず1組入れたいなって思っています。
あとはイベントの数も結構多かったりするから、あんまり似たような組み合わせにならないように。そのグループがウチじゃない他のイベントでよく一緒になってるっていうのであれば外したりとか。それと、客層が丸々被らないように。結局客層が被ってる方がお客さんは来るんだけど、それを繰り返してても広がりがないから、ちょっと違う客層が来るような感じにしています。
甲斐 はい、ありがとうございました。たくさんお聞きしたと思うんですが、この度はインタビューありがとうございました。
内山 今後ともよろしくお願いします。
琴山 本日はいつもRAYがお世話になっているこばけんさんにインタビューさせていただきました。ありがとうございました。
こばけん ありがとうございました。
今回のメンバーインタビューでは、こばけんさんが自分の目と耳で情報収集を行い、コロナ禍を耐え忍びつつ界隈のリアルな動きを感じながらイベントを組み立てていくさま、また楽曲が流通する仕組みについても伺うことができた。こばけんさんの話し方から感じ取れる「柔らかさ」は、単なるキャラクターである以上に、イベントの設計思想にも反映されているように感じられる。運営インタビューでは対バンイベントを始めた経緯や現在の目論見、そして次の可能性にまで迫っていく。