
Special Interview
制作/イベンター
田村庄平(Edenhall Inc.)さん
運営インタビュー編

コロナ禍を乗り越え、アイドル活動の「現場」を支え続けている制作・イベンター。今回は制作・イベンター双方の顔を持ち、RAYの全ワンマンライブに制作として入っていただいている田村庄平さんにRAY運営がインタビューを行った。月に数十本もあるというイベント制作の膨大な業務をどう回しているのか、そしてアイドルイベントの面白さはどこにあるのか。イベントを制作する際の思考を伺っていく。
■膨大な業務をいかに回すか
運営(楽曲ディレクター・みきれちゃん) 田村さんは月何本くらいイベントをやられているんですか?
田村庄平(以下田村) イベント数の数え方にもいろいろあって、例えば1会場でも昼夜で2本やったりもするじゃないですか。その中で1本を会場数として数えるとすると、今減らしているんですが、それでも月に大体20本くらいです。
運営 すごいですね。基本現場にいるんですか?
田村 自分がいないと回らない現場にはいますが、他の制作さんが立ち会ってくれる現場などであればお願いすることもあります。
運営 1日で同時並行で3現場回しているみたいなこともおっしゃっていました。
田村 あります。
運営 現場にいることへのこだわりはありますか?
田村 基本自分がやらせて頂いている案件は、自分が観たいからというのがありまして。それなのに現場にいなかったら悲しいじゃないですか。なので自分が動ける日程というのを前提にしています。
運営 ただ、現場を回すだけでなく、デスクワークの仕事量も尋常じゃないはずです。現場業務と事務作業のバランスみたいなところの話はあると思うのですが。
田村 振れるところは振っていることもあります。他にも、例えばZeppとかの規模になってくるとマンパワーではどうにもならなくなってきて、チームワークが重要になるので(自分が)1人いるかどうかという話だけではなくなります。
Zeppクラスの制作で、例えば事前物販をやりましょうとなった時は、物販周りのレイアウトだったり、列整理などいわゆる運営的な部分は会場運営会社に任せることが基本です。一方で、規模がそこまで大きくなくて、マネジメントや会場さんがフォローしてくれる会場の時は、そうした運営会社を入れずに僕が1人でやっちゃうことが多いです。なので現場業務も規模感によってっていう感じのイメージですね。
■イベントの規模感と目的意識
運営 イベント制作と言っても小規模から大規模まで様々あると思うのですが、田村さんは中規模から大規模の制作が多いイメージを持っています。LIQUIDROOMとかが中規模のイメージなんですが。
田村 僕の中で大規模というとキャパ5000人くらいからの感じです。そのくらいの規模の制作も確かにやるんですが、メインはキャパ1000人くらいの中規模な会場が多いです。小規模というところだとキャパ200人くらいのところもやります。
運営 それぞれの規模感で面白さ、やりがいはありますか?
田村 僕の中でいくつか目標があるんですが、自分が担当させていただいているアーティストさんで、日本武道館をやりたいという思いはあります。ただ、例えばアイドルだと生誕単独公演って多いと思うんですが、200人キャパくらいのライブハウスの規模感のグループ、500人以上入る規模感のグループ、ホールクラスのキャパが埋まる規模感のグループと、グループによって様々な規模感があると思います。今来てくれているお客さんを大切にしようという見方だとそれぞれの規模感でしっかりやれることをやるのが大事だと思いますし、いろんな人に観に来てもらうキッカケにしようという見方だとちょっと大きめの会場を使うとかもあると思います。なので面白さややりがいというのは、会場の規模感ありきではないなという感じです。
■イベンターと制作の違い、アイドルイベントの特徴
運営 なるほどです。また次の質問なのですが、イベンターと制作の違い、定義といったところの田村さんのお考えをお聞かせいただけますでしょうか。
田村 明確な定義ってないと思うのですが、イベントの規模が大きくなるにつれて関わる人が増えて、その関わる人をうまく繋げてチームにするみたいな仕事が制作かなと感じています。ただイベントを遂行するというより、その遂行を人の繋がりから支えるというか。
運営 確かに、人を繋げてチームを作ってもらうという面で、RAYは田村さんにとてもお世話になっています。人を繋げるのは結構特殊能力というかパワーが必要で、田村さんが普段からやっていることへの信頼感みたいなところから出来ることだと感じています。
ガラッと質問を変えて。田村さんは色んなイベントの制作をやっていると思うのですが、ボリュームとしては音楽イベント、音楽イベントの中でもアイドルイベントが多いという感じでしょうか?
田村 アイドルのボリュームがやっぱり多いです。アイドルの面白さは、何をやるにしても動きが早いことだと思います。普通のアーティストだと、例えば来年の3月にタイアップがあって、そのタイアップに向けてこういう風にイベントも組んでいきましょうみたいな、結構長期スパンになることが多いんです。一方、アイドルだとそれこそ1か月で動員が倍になったりとかもざらにあったりするじゃないですか。そういうところにエネルギーみたいなものを感じていて、エネルギーを感じるところを多くやらせて頂いていると必然的にアイドルが増えていたような感じです。
運営 なるほど。そこはアイドルカルチャーのポジティブな側面だと思いますが、逆にネガティブなことを感じたりはしますか?
田村 アイドルの場合は特にメンバーの意識を同じ方向に統一するのが難しいなとは思ってみています。
先ほどと逆の話になるのですが一度歯車がかみ合わなくなってしまうと修正が難しく、一気に崩れるグループさんも沢山みてきました。
運営 その点は結構アンコントローラブルだなと思いつつ、どう同じ方向に向かえるかというのは運営の能力でもありますよね。バンドとかだとやってるうちはやりたくてやっているので基本的には同じ方向に向かっているものだと思います。
■印象に残っているイベント
運営 田村さんって病んだりしないんですか?
田村 メンタルですか?病まないです。でも悪いことが続く時ってあったりするじゃないですか?そういう時はお祓いにいったり滝行したりしてますが(笑)、どん底まで落ちないように意識しています。
運営 なるほど(笑)。また全然話が変わるんですが、田村さんにとって重要、ターニングポイントになったようなイベントってありますか?
田村 BELLRING少女ハート(注:2012年〜2016年に活動した女性アイドルグループ。2022年に期間限定で再結成)のメンバーが卒業する公演があったんですよ。10日連続で日替わりの会場で縁あるゲストの方を日替わりでお呼びしてライブをして、最終日に目黒鹿鳴館で卒業するというイベントでした。いくつかは対バンにお呼び頂いたんですが、ほぼ主催だったのでその連続イベントの会場押さえと縁あるゲストの方のブッキングをやらせて頂いたことですね。
最終日の卒業公演に向かっていく空気感というのが、メンバー自身のパフォーマンスもすごいよかったし、お客さんも最後全部出し切ろうみたいな、エネルギーのぶつかり合いみたいなのがあって。今コロナの影響で難しいところはあるのですが、どちらかというと激しい現場の方が好きで、演者とお客さんお互いのパワーが出ている現場というか。それを一番感じられた現場だったなぁというのがあります。
運営 当時のBELLRING少女ハートさんは僕も観ていましたが、田村さんのおっしゃる通りステージの熱量もフロアの熱量もすごかったです。コロナの影響もあって現在のライブアイドル空間にはなくなってしまったものだと思います。ただ、今の時代に「あの頃はよかった」的な感じでリバイバルする、させるべきものというのも少し違う気がしていて。
田村 時代背景とか含めての現象だとは思います。その時代とか環境に限定されたところで、当時のシーンの空気感みたいなものが上手くかみ合ったものですよね。
■「こんなに良いものを作ってるんだから、多くの人に知って欲しい」
運営 田村さんとの出会いは我々が・・・・・・・・・を運営していた頃、それも活動終了する少し前だったと記憶しています。
田村 2019/1/29の目黒鹿鳴館ですね。raymay(注:2018年に結成され2020年に解散した女性アイドルグループ)とMIGMA SHELTERとの対バンです。自分が携わった過去のイベントは全て出演者含め情報をExcelに入れているんですが、すごい、前売1900円ですって。
運営 ・・・・・・・・・の頃は何でもかんでもDIYでやるものだという謎の意識があって、興行規模が大きくても制作を入れず力技で運営だけでやっていました。今はもうなくなってしまいましたが赤坂BLITZ(注:2017年にマイナビ赤坂BLITZ赤坂と改称し2020年に営業終了)も制作抜きで自前でやっていて、会場スタッフに「舞台監督さんはどなたですか?」と聞かれて「舞台監督ってなんですか?」みたいな状況でした(笑)。イベントに制作で入ってもらうというのは、RAYの1stワンマン「birth」のWWW Xで田村さんにご協力いただいたのが初めてでした。
そんな感じで良い意味でも悪い意味でもDIYで、世間知らずみたいなところを、RAYのここ3年間は田村さんに制作に入ってもらうことで鍛えてもらった感じがあります。田村さんは単に「イベントやりましょう」的なことだけでなく、そのチームの最適解みたいなもの、グループを大きくするため、目指す方向に行くためにどうすればいいか、といったことを考えて提案してくれます。先程お話があった「一緒に頑張って武道館に行きたい」みたいな話題も、そういうところと繋がってくるのかなと思っています。
田村 まさにそんな感じで、こんなに良いものを作ってるんだから、多くの人に知って欲しいという思いは大きいです。そういう機会を増やしたいというのが一番の行動理念かもしれません。
運営 田村さんには、こうやって良い公演、大きいものを作っていくんだよというところで鍛えていただいてきたように思っているのですが、そうした流れで今のRAYにアドバイスなどはあったりしますか?
田村 どのグループさんでもそうなんですが、こういうふうにやらなきゃいけない。こういうやり方の方がいいと思う。といった自分の考えを相手に強制するような伝え方をするのは嫌で。
そのグループをやっている方の意思、が一番尊重されるべきだと思っています。
その中で、最近のトレンドだとこんなのがあるのでどうですか?と、選択肢として出すことはありますが強制はしたくないんです。その上でお伝えたいことはあるのでインタビュー外で(笑)。
運営 ありがとうございます(笑)。今日は掲載できなそうな話題含め、さまざまなお話ありがとうございました。
今回の運営インタビューでは、イベントの規模感や目的に応じた考え方、実業務の回し方、そして制作という仕事の根幹にある思いまで伺った。ただイベントを作るのではなく、そのグループの次の展開に繋がりうるイベントをサポートする田村さん。メンバーインタビューでは、RAYとの出会いやイベント当日の詳細な業務、人と人を繋げる意識などが語られている。未読の方はぜひお読みいただきたい。
Special Interview 制作/イベンター 田村庄平(Edenhall Inc.) 〜メンバーインタビュー編〜