
Special Interview
制作/イベンター
田村庄平(Edenhall Inc.)さん
メンバーインタビュー編

会場を押さえアーティストをブッキングしイベントを開催するイベンターと、ライブ内容や演出を実現するためにスタッフをはじめとする多くの人々を繋ぎ合わせる制作。今回は、その 両者の顔を持ち、RAYの全ワンマンライブに制作として入っていただいている田村庄平さんにRAYメンバーがお話を伺った。人と人を繋げる仕事の難しさややりがい、イベンター・制作としての仕事の実際を聞いていく。
■RAYとの始まりはナンパから
琴山しずく(以下琴山) 5月8日に開催されるRAY 3周年ワンマンライブ「works」では、RAYのライブや活動を支えてくださっている周囲の方々にフィーチャーしていきます。今回は制作・イベンターの田村庄平さんにインタビューさせていただきたいと思います。
メンバー一同 よろしくお願いします。
田村庄平(以下田村) よろしくお願いします。
甲斐莉乃(以下甲斐) それでは早速質問なんですが、田村さんはイベンターと制作ということで、それぞれのお仕事の内容や違いがあったら教えていただきたいです。
田村 まず自分がイベンターなのか制作なのかっていうところの線引が難しいんですが(笑)。「こういう公演をやりたいです」って制作が持ってくるものに対して、イベンターはライブハウスや会場を押さえて「じゃあチケットをこういう風に仕込みましょう」みたいな実務的な仕事をやります。あとは、自分でいろんなアーティストさんをブッキングして、主催公演としてイベントをやるのもイベンターの仕事になりますね。
RAYに関わらせていただく時はどちらかというと制作という形が多いんですが、例えば運営さんから「こういう演出をしたい」とか「こういうライブをしたい」っていう話をもらったときに、「じゃあ、こういう会場だったら液晶(ディスプレイ)が使えるのでその演出は出来ますよ」とか「こういう人に頼めばこういう演出が出来ますよ」みたいに、実施出来るよう具体的な選択肢を増やしていくことが制作の仕事かなという風に思ってます。
甲斐 普段はどちらのお仕事が多いんですか?
田村 どちらかというと制作の仕事をすることが多いですね。「このアーティストさんだったらこういう風なことをやったら面白いな」と思うことを逆にこちらから提案させてもらって会場を決めたり、「前にこういうこと言ってましたけど、こういう形だったら出来ますよ」みたいな話をして。実際にそれが形になった時に、お客さんが観てくれる、喜んでくれるのが嬉しいですね。
甲斐 そうなんですね。
内山結愛(以下内山) RAYのほとんどのワンマンは田村さんに制作として入っていただいているんですが、RAYのワンマンを開催するまでの道のりや過程を教えていただきたいです。
田村 RAYさんに初めて関わらせていただいたのは、2020年8月24日に渋谷WWW Xでやった1周年ワンマン「birth」でした。その頃は他にもいろんなアーティストさんの制作をやらせて頂いていたのですが、ドッツさん(注:女性アイドルグループ「・・・・・・・・・」の呼称の一つ)の時から見ていて音楽性を含めてすごく好きで。
RAYさんになってから主催のイベントにご出演いただいた時に、メロンちゃん(注:RAYの楽曲プロデューサー)に「今度お仕事やらせてください!」ってナンパをしたんですね。RAYチームとしては元々、制作さんを入れたりしないで自分たちで主催やワンマンを今までやられていたんだけど、会場の規模感が大きくなったり何かをやるにあたって「一回一緒にやってみましょうか」っていう風に言っていただいて、やらせていただくようになりました。
過程としては、1周年ワンマンをやる時に「具体的にどういう演出をしたいですか?」っていうお話を伺って、「その演出だったらじゃあ、こことここの会場はどうですか?ここだったらこの辺の日程が空いてます」みたいに、まず会場を決めて行くところから始まりますね。
■イベント当日の仕事
内山 ライブ当日の仕事はどんなことをするんですか?
田村 仕事内容としては、まず朝一番に会場に入るんですね。例えばLIQUIDROOMでやったワンマン(注:4thワンマン「PRISM」)の時は、朝8時に入って会場の入館申請をして、それと同時刻くらいに照明さんとか音響さんとかテクニカルの方々が入ってくるので車の駐車する位置を決めたりとか。次いで、ステージの準備をする順番を決めて「こういう風にやってください」と話をして、ライブが出来る環境になるまで整える。あと、メンバーさんが入ってくる前に楽屋のエアコンをつけたりとか、延長コードを用意したりとか、演者さんがストレスなく過ごせるように環境を作る。あとはお弁当ですね。
甲斐 お弁当、いつもありがとうございます。
田村 イベンターの仕事ってよくオベンターみたいな言い方をしてるんですけど、出演者さんとかテクニカルさんがお弁当で少しでもテンションを上げられるようにと考えて、いろいろ用意をしています。
でもまのちゃんの生誕(注:2021/4/18に開催した甲斐莉乃生誕祭「世」)の時は大変でした。メロンちゃんに「まのちゃんの好きな食べ物は何ですか?」って聞いたら「もやしと豆腐です。」って返事が来て(笑)。
甲斐 その時は「これとこれはどうですか?」って聞かれて、どっちもすごく美味しそうなやつで。確か焼肉かハンバーグかみたいな選択を聞かれたと思う。
田村 肉にしようって思って肉にした記憶があります。
甲斐 美味しかったです。
田村 話を戻すと、お弁当を準備して出演者さんが入ってきます。テクニカルの進行状況をみて、リハーサルの段取りを修正したり、マネジメントやメンバーさんと話してその日のコンディションなどを確認します。
例えばメンバーさんが怪我をしているのであれば椅子を用意したり、リハ中のメンバーさんの体調などを見ていますね。ステージドリンクは水だけじゃなくて、脱水にならないようにアクエリも用意したり。
あとは場内の準備で、女性エリアを作るとか椅子の配置を作ります。開場した時には物販の場所や列の整列、フロア内でお客さんが1か所に密集しないような環境を整えていきます。
ライブが始まったら空調の温度を見たり、フロアで何かトラブルとかが起きていないかを確認して、終演後は物販や特典会がスムーズに回るようにレイアウトを作っています。全部が終わったらメンバーさん達を送り出して、会場を掃除して帰るみたいなのが一日の流れですね。
内山 もう全てですね(笑)。
■人と人との繋がりで成り立つ仕事
琴山 イベンターさんのお仕事と制作さんのお仕事の難しさややりがいがあれば教えていただきたいです。
田村 難しさはどちらにも共通することなんですけど、基本的に正解がないんですよね。例えば全く同じことをやったとしても、その時のアーティストさんのテンション感だったりお客さんの雰囲気によって印象が変わっちゃったりするので、出来るだけ沢山の人が良かったなと思って頂けるものを作って、ストレスなく終わるようにすることが一番難しいことだと思っています。
そもそもが、このアーティストさんをこんな場所でみたい、そういう機会を作りたいっていうのがこの仕事をしようと思ったキッカケでして、うちのEdenhall Inc.という会社としてアーティストさんを抱えているわけじゃないし、音響さんとか照明さんみたいなテクニカルスタッフさんとかも会社にいるわけじゃないんですよ。でも、人と人との繋がりで「このアーティストさんをこの音響さんがやったらどんな音が出るんだろう」とか「こういう照明の演出をかけたらどういう表現が生まれるんだろう」みたいな、パッと思ったことを実際に実現出来て、お客さんが喜んでくれているのを見てるとテンションが上がるというか、それがやりがいですね。
琴山 ありがとうございます。
甲斐 イベントによっては他にイベンターさんがいて田村さんが制作に回ることはあるんですか?
田村 実は結構あって、Edenhall Inc.と名前を出してやっている公演にはアイドルさんの公演が多いんですけど、大手レーベルとかの仕事も結構受けたりするんですよ。そういう公演とかはプロデューサーとか事務所などの仲の良い人から「こういうアーティストがいるんだけど制作やって欲しい」みたいなのを振って頂いてお仕事をしています。
内山 人との関わりが大事なんですね。
琴山 人との繋がりが仕事に繋がっているというか、紹介という形で仕事を受けることが多いんですか?
田村 そうですね。「この人と仕事すればこういう風に出来るだろう」みたいな信頼関係で回っていることが多いです。
■身体が第一
内山 イベンターや制作というお仕事の魅力があれば教えていただきたいです。
田村 リアルにお客さんと話せるところですかね。イベントを見たお客さんがSNSですごい喜んでたりとか、「またこういうのやって欲しい」みたいなアクションを起こしてくれることがすごく嬉しいです。
あとは前に新宿BLAZEでRAYがMIGMA SHELTER(注:2017年に結成された女性アイドルグループ)と二丁目の魁カミングアウト(注:2011年に「新宿二丁目のご当地アイドル」として結成されたゲイアイドルグループ。2017年に現在のグループ名となる)と対バンした時に、お互いに刺激を受けて、「もっと良いものを作っていける」っていうキッカケになったと思えた時は嬉しかったです。
内山 こちらこそありがとうございます。
琴山 イベンターさんと制作さんの両立で仕事量が多いと思うんですが、この職業に向いている人、向いていない人っていうのはありますか?
田村 向いている人は、まず身体が強いっていうのが1つだと思います。基本的にお休みっていう概念がなくて、朝8時ぐらいから夜中の5時ぐらいまで連絡が来るので、連絡が来たらいつでも返信するっていう感じです。
琴山 いつ寝てらっしゃるんですか?
田村 疲れた時に机とかで寝てます。
メンバー一同 えー!
内山 身体、バキバキ……。
甲斐 布団はないんですか?
田村 あるんですけどベッドで寝ると起きれなくて。机で寝ると身体が痛くて目覚めるので机で寝てます。
琴山 お身体、気をつけないとですね。
田村 そうですね。すごい安直な言い方にはなるんですが、あとは人と関わるのが好きな人が一番だと思います。その人がいま何を考えてるかっていうのを想像して、ストレスだったり違和感を出来るだけ感じないような環境を作りたいなと心がけてますね。
琴山 ステージ裏とかで田村さんが毎回声を掛けてくださって、リラックスしてライブに臨めるのでありがたいです。
田村 嬉しいです。
■イベンター・制作としての人との距離感や接し方
甲斐 人間関係を築いていくというお仕事の中で、ファンの方との距離感で気をつけていることはありますか?
田村 コロナの時期は特にそうなんですけど、ルールを守って楽しんでいる人が不利益にならないようにっていうのをすごく気にしています。今、声を出せないところで声を出している人とかがいたら、声を出している人はもちろん楽しいけどそうじゃない人が不快に思ってしまうことがあると思うので、そういう時は声を出している人を引きずり出したりとかはありますね。
甲斐 ファンの方とコミュニケーションを取ったりするんですか?
田村 お客さんと話したりはしますね。どういうのをみたいかっていうのを聞いたりとか、メンバーの○○さんが他グループの○○さんと最近仲がいいみたいだから対バンしてください!みたいないろいろ話したりしますね。
内山 ファンの方のこともいろいろ考えてお仕事をなさっている。田村さんとワンマンライブを一緒に作り上げてきて、田村さんの気遣いにいつも感謝の気持ちでいっぱいです。
田村さんが私たち演者や運営さんと関わる中で、何か大切にしていることはありますか?
田村 やっぱり一番はその人に合わせることだと思っていて。演者さんだったら出来るだけ普段と同じ環境でライブが出来るようにしたくて、例えばどの会場でも普段飲んでいるステージドリンクが楽屋やステージにあるとか、始まる前に水を飲みたいとかセットリストを確認したい時にそれが出来る環境を作って、出来るだけ同じようなルーティンでライブが出来るようにっていうのを一番意識しています。その人が結局何を求めているかっていうのを見るようにしていますね。
甲斐 ステージドリンクに4人が好きな色のテープを貼ってくれて、すごく嬉しかったです。
田村 灰色のテープってあんまり使わなくていっぱい残っているので、RAYさんの公演をたくさんやりましょう。
甲斐 灰色は高級なんですよね。
田村 そうそう。普通に使うビニールテープの規格ではなくて、たしか値段が8倍ぐらいしてた気がする。
甲斐 これからも灰色を使っていただきたいです。
田村 はい、もちろんです。
甲斐 ありがとうございます。
琴山 先ほど仕事は依頼を受けることが多いとおっしゃっていましたが、依頼されたアーティストさんとかアイドルさんをよく知らない場合は、どう情報収集されていますか?
田村 情報収集としては、どうしても自分の現場数が多いのであんまり観に行けないんですけど、毎回ライブハウスの人とかに「最近面白かったグループを教えて」って聞いて、よく名前が出るグループさんとかは観に行ったりしています。後はサブスクとかで再生回数が多い音楽を聞いて、興味を引いたものを観たりという感じですね。
■コロナ禍でのもう一つの拠点、沖縄
甲斐 普段から忙しい日々を送っていると思うのですが、田村さんは沖縄在住なんですよね?
田村 実際には沖縄にも家を借りているって感じですかね。会社として某映画祭関連の仕事も受けていて、コロナになる前は都内の現場が一番多かったんですけどコロナが流行って都内の現場がなくなった時に、某映画祭が中止になった際の後処理などで2週間ぐらい沖縄に滞在していて。
「今は現場がないので拠点を東京にする必要もないし、無理に帰らなくていいか」と思って向こうで家を借りた感じです。
甲斐 あ、そうなんですね。
田村 今は現場が増えてるから東京に帰って来たりしてるんだけど、今月は9往復していますね。
甲斐 え、そんなに!
内山 想像以上でした。
田村 週末は現場があるので東京に帰ってきてるんだけど、沖縄までは2時間半だから大阪行くのと変わらないんですよね。Edenhall Inc.っていうのは音楽系の事業をやるときの屋号で使っていて、会社としては飲食店の経営だったりとか、胡蝶蘭とかのいろんな洋蘭の栽培を沖縄でやってるんですよ。
内山 ええ、すごい。
田村 だから音楽系以外の仕事もあって沖縄にも行ってますね。
琴山 本当に寝る暇がないですよね。
田村 沖縄だと現場はないからゆっくり出来たりしますよ。
甲斐 そしたら沖縄に行ったら、何日かはゆっくり過ごせるんですね。
田村 そうですね。場所が沖縄なだけで。企画書作ったりとか打ち合わせしたりとか、やっている仕事は変わらないですね。
甲斐 今日はたくさんお話を聞けて良かったです。ありがとうございました。
田村 ありがとうございます。
メンバー一同 これからもよろしくお願いします。インタビューありがとうございました。
今回のメンバーインタビューでは、イベンター・制作のやりがい、イベント当日の仕事の流れ、人と人を繋げる仕事の醍醐味について伺うことができた。東京と沖縄を月に何往復もする多忙さの中、人への気遣いを最優先にする田村さんのスタンスは、結局のところ人と関わることが好きだという気持ちが原動力となっていることが伝わってくる。運営インタビューではさらにイベントを制作する際の思考について深掘りし、制作における行動理念に迫っていく。