Special Interview
ヘアメイク 山田季紗さん
運営インタビュー編
アイドルの思い、クライアント(運営、アーティスト)の思いを受け取りつつ、アイドルの個性と表現のコンセプトをビジュアル面で両立させるヘアメイク。RAYの様々なビジュアルコンテンツやライブでヘアメイクを担当していただいている山田季紗さんに、RAY運営がインタビューを行った。ヘアメイクになった経緯やヘアメイクにおける技術的な難所、そして現場におけるコミュニケーションについて伺っていく。
■ヘアメイクという職業へのルート
運営(コンセプト担当古村) まずヘアメイクさんになるための道としてはどういった形があるのでしょうか?先程のメンバーインタビューでは「ヘアメイクは美容師と勘違いされる」というお話がありましたが、そこからの繋がりで、例えばヘアメイクの専門学校が美容師の専門学校とは別にあるのか、それとも同じ美容系の学校から道が分かれていくのか等教えていただきたいです。
山田季紗(以下山田) ヘアメイクになるにはいろんなルートがあって、私の場合は美容学校のヘアメイク科に通っていました。でも学校には美容師科もありました。
運営 なるほど。
山田 大体は1つの学校で美容師科やヘアメイク科みたいに分かれている感じだと思います。トータルビューティー系となると実際はネイルやエステ等もっと細かくあるんですけど、大体美容学校というと美容師科かその他という分け方になっていますね。
私は高校卒業のタイミングからヘアメイクになろうと思っていたのでヘアメイク科に進んだんですけど、美容師になって美容師を今も続けながらヘアメイクしている方もたくさんいるので、ヘアメイクへの道はいろいろあります。
運営 美容師は資格がありますが、ヘアメイク科を卒業した方は美容師の資格は取らないんですか?
山田 私は美容師免許を持っていて、それは何故かというと私が通っていた学校の方針が「絶対必要になるタイミングがあるから資格は取っておけ」っていう学校だったんですよね。実際、ヘアメイクの現場で「前髪が伸びたから前髪を切って欲しい」っていうこともあるので持ってる分には困らないですね。でも美容師資格を持っていなくてもヘアメイクになることは出来ます。
運営 専門学校に入るタイミングで私はヘアメイク一本だと決めていたとおっしゃっていましたが、どういうキッカケがあってこの道を志したんですか?
山田 高1、高2ぐらいからヘアメイクになろうと思っていました。日常でヘアメイクさんを見る機会はなかったのですが、高校生の時にドラマのエキストラに行ったことがあって、ドラマの現場で演者さんに付いているヘアメイクさんの姿に憧れたのがキッカケです。
運営 心を打たれて、という感じで?
山田 そうです。元々美容業界に興味はあって、ドラマも好きだしテレビも大好きだったのでこういう芸能業界に憧れがあったんですけど、生で見ることってほぼなかったので。
運営 専門学校を卒業された後は、師匠さんはいるけれどもアシスタントではなく独立したヘアメイクとして現場に出て。
山田 卒業後、事務所(注:スーパーブリー、Superbly Inc.)に入ったって感じですね。
運営 なるほど。多くのヘアメイクさんはアシスタントから独立したら、基本的にはどこかの事務所に所属するのが基本なんですか?
山田 いや、そんなこともないです。フリーランスでやってる方もたくさんいらっしゃったり、事務所に入って事務所内の活躍されているメイクさんたちに付いたりっていうこともあります。事務所に全く入っていないメイクさんに直で「アシスタントに付きたいです」っていう人もいますし、いろいろ形があります。
運営 事務所に所属した場合っていうのは基本的にチームみたいな意識になるんですかね?各現場にチームで行くみたいな形で。
山田 私の所属している会社はそうですね。チームでファッションショーを仕切ったりもするのでチームって感じですけど、事務所によっては業務委託でやっている所もあって他の人は全然知らないみたいなこともあるので、事務所によってバラバラだと思います。
運営 チームの意識があると現場でのコミュニケーションが円滑に進みそうですね。
山田 そうですね。大きいファッションショーとかアイドルのライブも大体知っている顔触れで行くので連携は取りやすいですね。
■メイクは眉毛、ヘアは前髪
運営 本当に初歩的な質問なんですが、1人当たりのヘアメイクってどれぐらいの時間をかけているんでしょうか?ピンキリかもしれないんですけども。
山田 大体メイクとヘアで1時間ぐらいです。
運営 チームで行った場合はメイクさんが複数人いることもあると思うんですけど、例えばメイクを誰かがしてて、別の誰かがヘアをやってるみたいなこともあるんですか?
山田 あります、あります。
運営 同時もあるんですね。
山田 同時だと大体30分から40分ぐらいで仕上がる感じですね。
運営 例えばヘア担当とメイク担当が分かれている場合は全体の統一感というかどう全体をまとめていくのか気になります。最後の人がまとめる感じなんですか?
山田 どうなんだろう?その日に作る人数にもよるというか……例えば2人で全員作るとかだったらメイクの統一感もメイクだけで決まるし、ヘアはヘアだけで決まるしみたいな感じなんですけど、どうなんですかね。私は基本チームで行くことしかないので、なんとなく分かるというか。
運営 阿吽の呼吸という感じで?
山田 みたいな感じですかね。私が行く現場は私が仕切ることが多くて、「なんとなくこの子はこういう感じだからこんな感じが良いと思う、そこが出来たら大丈夫。あとは任せる。」みたいに。
運営 順番として、「メイクした後に髪をセットする」というイメージがあるんですけど、髪をセットした後にメイクするということもあるんですか?
山田 あります。ただ前髪は最後に作ったりするんですが、先にヘアだけやって、やり終わったら次はメイクをやるということもあります。
運営 メイクもしくは顔のパーツにおいて、最も時間をかけるところというか、注意を払うところはどこなんですかね?
山田 時間がかかるかどうかはあれなんですけど、大体アイドルやタレントさん、一般の方でも眉毛は一番難しいって言うんですよ。
運営 目なのかなと思ったら眉毛なんですね。
山田 一番難しいと言われるのは眉毛で、みんな苦手なんですよ。肌とか綺麗に作ってアイメイクもめっちゃ上手だけど眉毛だけ変になったりするんですよ。なので眉毛を綺麗に描いてあげるとすごい喜ばれます。
運営 メンバー的にもそんな感じ?
甲斐莉乃 そんな感じです!
山田 そうですね。眉毛が苦手っていうのは多分女性みんなの悩みですね。
運営 その事情、男性はほとんど知らない気がします(笑)。
山田 眉毛でやっぱり顔の印象が変わるんですよ。なので時間がかかるかどうかは置いといて、眉毛は綺麗に描いた方が喜んでもらえますね。
運営 なるほど。めちゃくちゃ参考になりました。ヘアアレンジでいうとやっぱり前髪なんですかね?
山田 そうですね。アイドルの子はやっぱり大体前髪命ですよね。
運営 今の話で思い出したことがあって、どのワンマンライブか忘れちゃったので山田さんが担当していたライブなのか記憶が定かじゃないんですが、ヘアメイクさんが「あなたたちの前髪をライブが終わるまで私たちが守るからね」とメンバーに言っていて、前髪命なんだなと思って聞いていました(笑)。
山田 守ってあげたい気持ちはすごいんですよ。
■ライブはキラキラが大事
運営 基本的な質問なんですけど、アイドルはステージに立って照明を浴びるという側面もありつつ、その後特典会や握手会で間近で見られるんですが、ここには見られる距離としてのメイクの難しさがあると思っていて、日常のメイクとアイドルのメイクはこんな風に違うんだよということはありますか?
山田 根本は多分そんなに変わらないというか、変わるのは濃さだけだと思うんですけど。
運営 ちょっと濃いめにするってことですか?
山田 そうですね。やっぱりライトで飛んじゃうんですよね。ライトが強すぎてどうしても飛んじゃうんですけど、ラメとかキラキラ系はライトが当たった時により光るので、ラメは使うことが多いですね。例えば日常が10段階で3くらいのラメだとしたら、ライブは7、8ぐらいのラメを使ってあげたいなと。
運営 光で飛んじゃうっていうのはいわゆる平板になっちゃうって感じですかね?
山田 そうですね。その時に使うライトの色ももちろんあって、全部飛ぶ時もあるんですけど、それは置いといても化粧っ気がなくなっちゃうというか。
運営 すっぴんに近づいちゃうというか。
山田 そうですね。日常的には黒と茶色で比べると茶色の方が柔らかいじゃないですか。でも黒を使ってあげた方がライブは映えるという違いですかね。普段は茶色を使っている子には黒を使ったり、あとマスカラを二回塗ってあげたり、ちょっと濃いめに作ってあげた方が映えますね。
運営 ライティングに合わせてメイクを作るという話をされてたんですが、逆にこういうライティングをした方がもっと顔が映えるのになと思うことはありますか?
山田 どうなんだろう?難しいですね。でもカラーライトはメイクの色が無くなるんですよ。なので本当は白が一番綺麗に映えるんですけど、ライブとしてはいろんな色のライトを使う方が映えるので、どのライトにも反応するラメを使っています。どんなライトが来てもやっぱりラメは反射するというかキラッと何かを塗っている感は出るので。
運営 ライトに依存しないっていう強さを持ってるんですね。
山田 そうですね。やっぱり私はライブに行った時のライティングがすごい好きなので、リップの色だったり頬に乗せるチークの色だったり、メイクをどのライトにも対応出来るようにはしたいなと思ってます。だからライトに負けない黒を塗ったりとかっていう感じですかね。
■アート作品とライブのメイクの違い
運営 事前にインタビュー質問を考えていたら、ヘアメイクさんの特殊性みたいなのが2つあるんじゃないかと思い至って。例えば音楽周りだったら音源を作るサウンドエンジニアさんと現場にはPAさんがいて、全く仕事が分かれているんですよね。だけどヘアメイクさんは、アー写やMVのような撮影して後に出すコンテンツにも関わっているし、リアルタイムでステージパフォーマンスが行われるライブにも関わっていて、実は俯瞰的に活動全体に関わってもらっているんだな、というのが1つめの気付きです。アー写やMVみたいなものとライブのテンションの違いや技法の違いは何かありますか?
山田 先程前髪の話はあったと思うんですけど、ライブの時は前髪を固めてMVも若干固めますけど、アー写では固めないんですよ。そういう違いはあるかもしれないですね。ライブはそれこそライティングもありますが、MVやアー写は形に残るもので結局仕上がりが全てじゃないですか。アー写はその世界観に合わせる、簡単に言えばクライアントに合わせるというやり方に近いんですけど、ライブは特にアイドルに関しては本人たちの気持ちを上げなきゃいけないので、とにかく本人たちが好きなメイクをするというか、ただただ気持ちだけを上げてあげることに懸けてるかもしれないですね。
運営 それは運営としてもめちゃくちゃありがたいです。
山田 そういうところの違いはあるかもしれないですね。それこそメイクの濃さは全然違ったりします。アー写でもめっちゃナチュラルなのに撮ってみるとめっちゃ濃く出たりする時もあるし、割と薄めで作って足していくことの方が楽なのでそうする時もあります。
ライブは基本MAXで仕上げますが、アー写やMVは本人たちから「ここを足したい」と言われても「一回カメラを観てからで良いかな?」という感じでカメラで確認しつつ仕上げていきます。
運営 まさに聞きたいところですね。後に深掘りさせていただきます。
先程浴衣と「Melty Kiss」の撮影で衣装の雰囲気に合わせてメイクの濃さを変えるという話がありましたが、一つちょっと気になったのは「コハルヒ」のMVで月日が二人出てくるんですよ。覚えている範囲で大丈夫なんですが、月日A、月日Bでメイクにはどんな対比があったのかという裏話があれば教えていただきたいです。
山田 結構前ですよね。ちょうど1年前ぐらいですよね。
運営 素朴な感じの月日と垢抜けたというか大人っぽいような月日の2つのキャラクターがありました。
山田 そうですね。もう一人は大人っぽい感じにはしましたね。差を付けてほしいということだったので髪の毛も変えたりはしていましたね。髪の毛の印象ってすごく強くて、同じ子が印象を変えたい時は大体髪型を上げたり下ろしたりすると違いが一番出るので、そこは最初に提案します。
MVのときは月日ちゃん自身がメイクのこだわりが強くて、とにかく最低限作りたいというのを言っていて、いや可愛いんだから薄くて大丈夫だよって。だから月日ちゃんの中の最低限と私の中の最低限でお互いちょっとずつ妥協していって一番良いところに落ち着いたのかなという感じでしたね。ちゃんとメイクしているMVの中の月日ちゃんのキャラも、いつもの月日ちゃん(のメイク)だとちょっと違くなっちゃうから、確かちょっと濃くしたぐらいなんですよね。
運営 ちょっと薄いメイクも月日がMVの上がりを見て「これ良いね」って。
山田 そうなんですよね。そう言ってくれてて。その時も足したいって言ってたけどカメラを観てからでって言って。
■ライブは時間との戦い
運営 次はワンマンライブの話になるのですが、運営のミスでもあるんですけどちょっと難しいなと思うのが、スケジュールにおいてヘアメイクの時間をきちんと確保したいが一方でリハ時間も確保しなければいけないという時間との戦いが現場であって。
山田 めちゃめちゃありますよね。
運営 どのワンマンだったか忘れちゃったんですけど、本番の結構直前までヘアメイクがかかっちゃってるみたいなこともあって、メンバーはメンバーでちゃんと完成させてほしいと思ってるしもちろんヘアメイクさんも完成させたいと思ってるし、ただ僕らの立場としては急かさざるを得ないみたいな感じもあって。ライブにおける時間との戦いみたいなのって何か考えられていることとかありますか?
山田 難しいですよね。ギリギリにタイムスケジュールが来て「いや、これ間に合わないな」みたいな時は間に合わないですって結構交渉することも多いです。いろんなアイドルやアーティストもやるんですけど、絶対リハは押すんですよ(笑)。
運営 リハが押さないことはないです、100%(笑)。
山田 ツアーとかで何公演もやっていたら巻いて終わったりとかするんですけど、大体その日1日1公演のアイドルさんは100%押すんですよ。だから必ず押すことを考えてメンバーに30分早く入ってもらったりすることもあるんですけど、会場の時間的に入れないとかってなってくると、いろいろ逆算をして。
運営 リハで汗をかくから直しもありますもんね。
山田 そうなんですよ。どのタイミングでどこまでやろうみたいなのをめっちゃ考えてます。前髪は後にやるとしてもやっぱりヘアだけは完成させといた方が後が楽だなとか。あと、もう一人いた方が良いなって思ったら最悪アシスタントを連れて来るとか逆算して考えることが多いかもしれないです。
運営 そうですね。読者向けに説明をすると、ヘアメイクさんにはリハの前から入ってもらい、リハ前からヘアメイクが始まっていてリハ後にも直しつつメイクを完成させて、かつ本番中にも直してもらってるんですよね。舞台袖にヘアメイクさんが待機してくれていて、メンバーがハケたタイミングで直してくれるというのが実は陰で行われているんですね。
本番中の話として、メンバーが戻ってきて汗をかいている時に最初にやることってなんですか?
山田 汗を拭くことですかね。最近だとハンディファンという手持ちの扇風機をとりあえずメンバーに託して汗を拭いてリップを直すぐらいしか時間的には出来ないです。例えば着替えがあったらとりあえず着替えを手伝ってあげなきゃいけないですし、あと髪飾りを変えなきゃいけないんだったら元々ついてるやつを外すとか、チェンジがあればそのチェンジに徹してチェンジが終わったら汗を拭いてあげて、という感じですかね。
運営 我々芸能関係に元々疎い運営で、舞台袖であとどれぐらい待機できるかみたいな情報共有も上手く出来ていなかった時代があって、舞台に戻るのがちょっと遅れちゃったりしたこともありました。だんだん分かってきたんですが、舞台監督さんが入るようになったのも結構最近で。僕が舞台袖にいる場合は(メンバーはイヤモニをつけていて声が直接届かないのもあり)iPadに大きく残り時間を表示して共有したりしていますね。そんな感じで袖での時間管理が出来るようになって、前はただ袖で水を飲んでいたところを、メイクを整えるということが出来るようになって。
山田 舞台袖はすごい時は本当にすごいですよ。戦争みたいな時もあります。
運営 あと20秒で舞台に戻ってきてねみたいな。
山田 そういうことも全然あります。私なんかたまにキレてます(笑)。
■メイクの「ジレンマ」を調停するプロセス
運営 ヘアメイクの特殊性みたいなもののもう一つは、先程メンバーインタビューでもお話が出ていたのですが、こんなにメンバーと長い時間一緒にいるスタッフは他にいないというお話で。音響さんや照明さんは現場にいる時間は長いのですがメンバーとコミュニケーションをずっとしているわけじゃないので、1時間単位でコミュニケーションしてるのってヘアメイクさんだけだと思うんですよ。
山田 そうですね。
運営 すごく素朴な疑問の1つめが、メンバーと何を話しているのかなということなのですが、どうでしょうか?
山田 学生の子は「学校では何が流行ってるの?」とか世間話ばかりでしたよ。女同士ですし、本当にそんな感じですね。仲良くなれば「元気だった?」とか。
運営 めちゃくちゃ良い関係じゃないですか。コミュニケーション力が鍛えられますね。
山田 何の話をしてたのか覚えていないぐらい世間話みたいなのが多いですね。
運営 ヘアメイクはおまかせなアイドルさんが多いんですか?
山田 全然そんなことないです。アイドルさんは要望が多い子の方が多いですよ。
運営 メンバーインタビューや「コハルヒ」の月日の話でもありましたが、さらに複雑だと思っているのが、運営なりアーティストなりヘアメイクに対するコンセプトみたいなのとメンバーの思いとヘアメイクさんの思いがあることで。つまりヘアメイクさんとアイドルの二者関係だけじゃなくて、ここに運営というかクライアントが加わって三者がいて、この調停をするのってマジで大変だなっていうのが傍から見てて思うんですよね。
これは結構根本的な話で、メイクって本来は個性を輝かせるためにあるのに、「アーティストの意図やコンセプト」があるとメイクによってその個性を潰すというか抑えるという矛盾したことが原理的に起こりうると思うんですよね。ここら辺の「ジレンマ」というか難しさがあれば教えていただきたいです。
山田 私は最初に、ここだけは譲れないというところはアイドルじゃなくても聞くようにしています。そこって多分その子らしさというか、いつもと一緒だなと感じる部分だと思うんですけど、そこにどれだけナチュラルに盛ってあげるかというところを気にしていますね。
運営 例えば運営がこうしてくれと言っても、メンバーがヘアメイクさんと二人きりになった時に「私はこうしたくないんです」と言われたら、ヘアメイクさんからしたら「いや、調整しといてくれよ」って思うだろうなと思ったんですけど(笑)。
山田 そう言われたらちょっと違うパターンを出します。「これだったらどう?」みたいな感じで、それでも嫌だったら運営に「やっぱり本人がちょっと嫌だって言ってるんですよね」と相談してという感じですね。ヘアについては衣装さんがいるとなんとなくのイメージがあったり、髪飾りを作ることもあったり、あと要望の細かいマネージャーさんの場合はパターン違いを作る時もあります。
あとは、アー写に入ってMVに入ったら、大体ライブにも入ったりするんですよね。だからライブはこれで良いかもしれないけど、とりあえずアー写はこれで行くみたいな。
運営 ライブは本人の気持ちを上げることが大事で。
山田 そうですね。アー写はアートディレクターが入っている時もあるので、世界観やバランスはやっぱり大事にしなきゃいけないと思うんですよね。そういう時は「全体のバランスがあるから今日は一旦これで」って言ったりします。そう言ったらアー写の時は結構分かってくれることが多いですね。
運営 なるほど。運営が本当は説明して納得を得ておくべきプロセスをヘアメイクさんにやってもらっているみたいな後ろめたさを感じています(笑)。
山田 でも、難しいですよね。
運営 そうですね。「私はこういうコンプレックスがあるからこれを隠すためにこうしたいんだ」って言われると「せやな」ってなるし、ただ一方でアー写やMVはこの世界観で行くと先方と話が通ってるんだよねという難しさがあります(笑)。
メンバーの気持ちを上げるためにメンバーの好きな音楽をヘアメイク中にかけるメイクさんがいると聞きますが、そういった気持ちを上げる、楽しませるみたいな文脈でやっていることはありますか?
山田 音楽を流すこともありますし、例えばアイドルの方は普段自分でメイクすることも多いと思うので、いろいろ道具を持っていきますね。せっかくヘアメイクが付いてるのでアイシャドウを並べて。私もそうですけど、女の子たちはやっぱり化粧品を見るとテンションが上がるのは一緒だし、どういう色にしようかなってテンションが上がるので、そういうのはあるかもしれないですね。
運営 これで大体、ご用意していた質問が終わりました。最後はまとめということで、本質的すぎる質問かもしれないですが、「私にとってヘアメイクとは」みたいなのをお聞きしたいです。
山田 一番難しいですよね。……「武器」ですかね?
私はこの仕事しかしていないのでこれしか出来ないんですよ。パソコンとかもめっちゃ苦手なので会社員に絶対なれないですし、逆に何かこの業界でも他のことが出来るかって言ったら出来ないし、もうこれしか出来ないので。でもこれで喜んでくれるなら続けたいなというか、やってほしいと言ってくれる人がいるならやってあげたいなっていう気持ちはあるし、この仕事が好きなので「武器」ですかね。
運営 ありがとうございます。
ナイーブな調停をしてもらったり、ご迷惑をお掛けすることもあるかと思うのですが、今後もメンバーたちをキラキラと輝かせていただけたらと思います。ありがとうございました。
山田 ありがとうございました。
今回の運営インタビューでは、ライブにおけるライティングとメイクの関係、ライブ当日のヘアメイクの動き、アート作品における現場調整の詳細まで語っていただいた。ヘアメイクはモチベーションを上げる道具であると同時にコンプレックスにも関わっており、山田さんがコミュニケーションによって「表現」との落とし所を探り、アイドル、クリエイター双方の理解を得ていく様子が伺えた。メンバーインタビューでは、ヘアメイクのやりがいと難しさ、ライブアイドルへのヘアメイク指南、最先端ヘアメイクの情報収集術などが語られている。未読の方はぜひお読みいただきたい。