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Special Interview
音響 大畑“gumi”修平さん
運営インタビュー編

現場における楽曲パフォーマンスにおいて、音響面に最も関与し、様々な音の調整・管理を行っているPA(Public Address)。しかしPAはその存在の圧倒的な重要性にも関わらず、「ただ音源を流す」以上にどのような役割がありどのような調整を行っているのか、あまり知られていない。メンバーによるインタビューに続き、RAYと関わりの深い音響 大畑“gumi”修平さん(グミさん)にRAY運営がインタビューを行った。PAと仕事をする上での「運営イロハ」から、詳細な楽曲ごとの調整の行い方など、より深い仕事術へと迫っていく。

■人前に出ることが苦手

運営(楽曲ディレクター・みきれちゃん) 先ほどサウンドエンジニアの徳永さんへのインタビューがありました。サウンドエンジニアと聞いてもどんな仕事をしているのかピンとこない人が多いのではと思いますが、楽曲ディレクターという立場からするとものすごく重要なポジションの仕事であるという話をしていて、そういう意味ではPAの仕事もよく似ているように思います。我々グループサイドがいい音楽を作り、表現し、それをさらに良いものにしてお客さんに届けてくれる役回りという意味でも似ていて、今日はそんなPAの役割の重要性を掘り下げていければと思っています。ところで、人前に出るのが嫌と聞きました。

 

グミさん(以下グミ) 人前に出るのはめちゃくちゃ嫌いです。この運営インタビューはテキスト公開ですが、メンバーインタビューは映像が出るじゃないですか、さらに嫌です(笑)。

 

運営 なぜそんなに嫌なのでしょうか?

 

グミ PAは人前に出るような役割じゃないからです。

 

運営 先ほどのメンバーインタビューでは、PAという役回りであるという以上に、グミさん個人がそもそも人前に出たがらない性格という話もありました。

 

グミ それもあります。裏で支える役回りだからこの仕事に惹かれたこともありますし、根本的に人前に出るのが好きじゃない。言い方に語弊があるかもしれませんが、でしゃばる人が嫌いというのもあります(笑)。そもそもステージに演者さんがいてはじめて僕らの仕事があるという感覚を持っていて、基本の関係はそうあるべき。だから出ない方が良いと。

■「通訳的なことができたら良いかなと考えている」

運営 グミさんは単に出音を整える音屋に留まらず、マインド面、ソフト面でも演者をフォローできるような動きを心掛けていると聞きました。実際RAY現場では、メンバーに対しても運営に対してもそうした心遣いを感じますし、グミさんがいる現場のやりやすさはその結果、効果だと思います。

 

グミ アイドル特有ではありますが、仕事上とはいえメンバーと喋ったりすることをあまり良しとしないところもありますよね。とはいえパフォーマンスをするのはメンバーさんですし、メンバーさんがリラックス出来たり、何かあれば聞きやすい環境を作るとか、そういうケアって必要じゃないかなと思うんです。

運営 メンバーに限らず、ある時期から運営にも様々な意見や提案を下さるようになったことを記憶しています。あれは何かきっかけとかあったりしたのでしょうか?

 

グミ RAYと関わる機会が格段に増え、ここまで関わるのであれば僕もより良くなる提案を伝えた方がお互いにとって良いかなと思ったからですかね。
 

運営 ああした意見、提案は本当にありがたくて、僕はディレクションだけでなく自分でも曲を作るのですが、作ることまではできても、サウンドエンジニアであればmix・マスタリング、PAであればライブ会場での出音をそれぞれ「整える」という段階になると、ノウハウが格段に落ちます。

 

グミ 好き勝手言ってるだけですよ(笑)。

 

運営 相手を尊重した上で物言いしてくれる技術屋というのは、ライブアイドル業界ではとても貴重な存在だと思っています。

 

グミ そこは僕なりの戦略もあって、他の人があまりやらないことをやらないと意味がないかなと。個人的に自分は技術に長けたタイプではないと思っていて、一方で人当たりの良さみたいなものが強みかなと。それを活かすにはどうしたら良いか考えた際、運営側が技術的に言葉にしづらいことを代わりにメンバーさんへ伝えたら聞こえ方や伝わり方も違うかなと思ったんです。通訳的なことができたら良いかなと考えています。

運営 僕は音響面では素人だと話したのですが、それはメンバーも同じで、あるいは僕はディレクションも自作曲もやっているので音楽知識の土台自体はあって、そうするとメンバーと運営の知識量、ノウハウのギャップをどう解消していくかというのが大事になります。ステージでパフォーマンスするのはメンバーなので、メンバーに音の知識があってこしたことはない。そうしたギャップを解消する役割を通訳的に担って下さっていると。

   音楽が好きでアイドル運営をはじめたというチームはあらかじめ音に関する土台が備わっていますが、アイドル運営を始める動機は音楽に限りません。一方でライブアイドルは、ライブ、音楽と切り離せないわけですから、音楽的経験値をどこかで重ねていく必要があって、そういう意味で物言う技術屋というのは、業界全体を底上げするような意味すら担っているような気がしています。

 

グミ そんな仰々しいことは全然考えていなくて、僕は目の前の人たちとお互いがやりやすくするためにはどうするかっていうことだけです。

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■アイドル現場の千差万別さと最大公約数的音作り

運営 アイドルPAというのはバンドやその他のPAと異なり、様々な意味で特殊性があります。まず、ライブ数が異常に多いです。会場も千差万別で、同じ会場だとしてもPAが同じだとは限らず、ライブのたびに違う環境でパフォーマンスすることが求められる世界です。なのでこの千差万別の環境をどうコントロールできるかが出音の鍵になります。

   運営側が何も事前準備せずに会場入りした場合、当日に現地でセットリストを提出し、会場でどんな音が鳴るかもわからない、PAさんがどんな音の調整をするかもわからない状態で、ドンッと音が出ます。PAからすると、全く知らない曲が、全く知らない声と共に、当日いきなりドンッと出される。これが一番丸裸の状態です。

   もう少し準備した形だと、事前にセットリスト、参考音源、歌割などを会場側に提出します。これによってPAが音を事前に予習できるようになる。歌割というのも実は重要で、アイドルライブではメンバーマイクは常に最大音量になっているのではなく、ハウリング回避のため歌唱メンバーだけフェーダーを上げるというようなことをやっていて、よく「追いかける」と言いますが、歌割はその参考情報になります。これでPA側がやりやすくなり出音の向上が見込めます。

   もう一段階質を上げる、安定させるには、出音の感じが分かるやり慣れた会場を選ぶ、会場とグループの音を熟知してくれているPAをアサインする、などが必要になります。

   長くなってしまいましたが、アイドルライブの多様な環境をコントロールするには、PAが鍵になるのだけど、音に関しては運営が最低限すべきことがあり、その動き如何でPAの作業品質も変わってくる、というような話がしたかったです。何か補足とかあればお願いします(笑)。

 

グミ おおよその流れというか、段階としてはそんな感じですね。

 

運営 RAYはグミさん担当イベントの時は必ずセットリストを事前提出していますが、事前資料なしのライブを今でも担当されることはありますか?

 

グミ あります。イベントや運営さんのやり方にもよりますが。

運営 事前資料のなしのPA、想像しただけで大変そうです。どんな音が鳴るかわからないわけですから。

 

グミ ​​今はSNSもありますし、出演グループは事前確認を出来る限りやっています。知らないことが一番怖いので予備知識ゼロで挑むことはなるべく無いようにしたい。ただ、実際にどんな声質や声量なのかまでは当日まで分かりません。熟知していないグループがたくさん出るイベントでは、最大公約数的な音作りというか、どんな音が来てもおおよそ対応できるように音作りをしておきます。なので事前情報が少なくても全く対応できないということはないですね。

 

運営 すごいです。

 

グミ アイドル業界の経験が浅い頃は驚くこともありました。

■アイドルトラックイロハと2mix問題

運営 メンバーインタビューでも話題になったアイドルPAとそれ以外の難しさの違いは、そういうところにあるのではという気がします。もう一つアイドルPAの難しさとして想像しているのは、2mix問題です。例えばバンドであれば、楽器一つ一つにマイクをたてて集音しPA卓で音を調整するので、ある意味細かな調整が可能ですが、アイドルはCD-RやPCから全ての音が一つにまとめられた2mixと言われる状態で卓に送られてくるので、塊の音をなんとかせざるをえず細かな調整が難しい。

   この話題の前に少し寄り道したく思います。ライブの出音として使う2mix音源も、最低これくらいの調整はしておいて欲しいといったイロハのようなものがあると思っていて、PA観点でそういう情報を教えて欲しいです。駆け出しのアイドル運営さんにも参考になればいいなと。例えばイロハの最初は、トラックの音量感を合わせることだったりすると思いますが、合っていますか?

 

グミ 合っていますね。例えばCD-R持ち込みのグループで冒頭のSEが割と小さめだったので大きくしておこうと思ったら、SE明け1曲目がガッツリマスタリングされたものでドカーンと出ちゃって驚くみたいなことあります(笑)。余談ですが、大体音源からメンバーの声を抜いたものがライブトラックとして使われていることが多いのですが、これが結構辛くて。音源は基本マスタリングで音量をかなり追い込んでるものが多く、音量・音圧がパンパンで遊びがないものがほとんどなんです。なのでこちら側で操作や調整可能な範囲が限定されます。本当は音源mixとライブ用mixの2通りを用意してもらった方が嬉しいです。もちろん予算的な問題もあるので難しい部分もあると思うのですが。

 

運営 RAYのサウンドエンジニアの徳永さんともまさにそういう話をしていて、RAYもある時期までは製品版音源のオフボーカルトラックを使っていたのですが、今はもう完全にライブ用に調整したトラックを使っています。この辺りはイロハの「ロ」かもしれません。

 

グミ そうですね。もっというと2mixでなく、トラックデータの最小単位であるパラデータを保有しておいて、それをある程度のステム(注:パラデータをある程度の塊にまとめたデータ)の塊にしておくとより良いと思います。するとPC側(運営側)でも調整の余地が生まれますし。

 

運営 ステムでポン出し(注:PCのボタンをポンと押してライブ音源を再生すること)するというのも、運営側の技術的なハードルが少し上がります。DAW(注:ライブ音源を再生する音楽ソフト)にいくらか習熟する必要がありますし、PC側で音を調整するにもEQ(注:イコライザー)のいじり方等を理解している必要があります。すると、こういうノウハウがない運営は、ひとまず2mixで整えて、PAさん側に要望を伝えて調整してもらう形になります。RAYもこのスタイルです。

 

グミ さらに一歩踏み込むと、音のシステム自体も専属PAが担当するスタイルもあります。

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■アイドルリハーサルイロハとモニター作りの注意点

運営 アイドルトラックイロハ、有益な情報だと思います。もう一つイロハを教えてもらいたいです。それはアイドルリハーサルイロハです。これはアイドル側が知っておくべきイロハと、運営側が知っておくべきイロハがあると思うのですが、教えてください。

 

グミ 少し観点が違うかもしれませんが、最近ボイトレをすべきかという質問を受けることが増えました。良いかどうかで言えばした方が良いと思います。アイドルを始める以前に歌に関して教育を受けたり実践したりしている人の方が少ないので、「発声する」「歌う」みたいなベースを整えるという意味では良いかなと。ただ、立って発声練習してるみたいな形は意味がないと思っているんですよ。なぜならアイドルは棒立ちで歌えることはほぼないんです。常に立ち位置とモニターの聞こえ方が変わり、更に息をゼーゼーさせながら歌っているわけで、その環境でやれないと意味がない。なので立って発声だけみたいなボイトレはあまり効果的じゃないかなと。ならマラソンや体幹トレーニングをした方がいいぐらいだと思っています。あとボイトレって良くて週一、場合によって月一ぐらいのペースで行くと思うんですけど、行ったら終わりではなく習ったことを反復する必要があるんです。でも行っただけで終わってしまっていることも多い。運営側もボイトレに通わせて満足している方もいます。総論、行かないよりは行った方が絶対いいんですけど、やるならアイドル経験者とか理解しているトレーナーさんに教わった方がいいと思います。いわゆるピンボーカルみたいな歌い方と、アイドルは全然違うので。

 

運営 今のボイトレの話は、リハーサルイロハという話題から出てきました。両者は地続きで、声量不足問題はアイドルライブの音響面で最初に突き当たる問題です。声量が足りない、じゃあボイトレですかね、とみんななるわけで。

 

グミ リハーサルの話題に戻ると、リハーサル時って場当たりや流れを認識するという意味合いもあるので、多分本番時の7割くらいだと思うんです。ということは残り3割のバッファがあるはず。その状態で声がよく聴こえるようなモニターバランスを作ると、本番の時に声のバランスが大きくてリズムが取れなかったり、ハウリングを起こす場合もあります。なのでリハーサル時に「ちょっと声が聞こえづらいかも?」くらいにしておくと良かったりもしますね。もちろん個人差があって、バッファが3割の人もいれば1割の人もいるし、リハーサルからトップギアで出来る人もいます。なので自分のリハーサルと本番の差異を理解しておくことは重要だと思います。
 

運営 僕がリハーサルで大事だと思うのは、「どうやったら自分がやりやすいか」の勘所をメンバーが早めにつかむということです。気持ちよく、違和感なく歌える理想の状態を体で理解することと、やりにくい場合理想との差分を言葉で表現できるようになること、そうやってアジャストしていく。僕はたまにしかステージでモニターチェックせず、基本中音はメンバーに丸投げです。とすると、メンバーがどれだけスムーズにPAとコミュニケーションを取れるかが重要になり、「こんなこと聞いたら、お願いしたら分かってないと思われるかも」みたいな不安をなくし、なんでも聞けるような環境が大事にもなります。以前メンバーが「今モニターってリバーブかかってない状態ですか?」と質問していたことがあって、僕個人は「モニターの声にリバーブかかってたら逆に歌いにくくないか?」と思ったのですが、グミさんが「じゃぁ少しリバーブかけてみます」と対応したら、実際メンバーかなり歌いやすそうになったことがあります。運営の理解の外でメンバーとPAがコミュニケーションしていい環境が作られた例です。

   もう一つエピソードを紹介すると、アイドルはステージの前っつらに一列に並ぶことがよくあるのですが、前に出れば出るほどフロア向けのスピーカーからの音がメンバーマイクに回り込みハウリングが起きやすくなります。RAYのメンバーは何も言わなくても「あ、ここまで行ったらハウるので今日の前っつらはここまでにしよう」というような会話をしています。こう言うのをメンバーだけでできるようになるのは、リハーサルの使い方として重要かなと思っていて、先程のリハーサルと本番の3割バッファの話題もこういう文脈に入ってくるのかなと思います。

 

グミ 根本的な話をすると、100点満点のモニターを作ろうとする考えはやめた方が良いかなと思います。何故かというと、ボーカル1人であればその人のためにモニターの調整が出来ますが、アイドルグループの場合は複数人で共有する必要があり、更に立ち位置もコロコロ変わる。そうすると1人が100点だと思っても、他の人にとっては100点ではない可能性があるわけです。なので「全員が最低限パフォーマンス出来るバランス」を目指す方が良いかなと。みんなが100点取りに行くと正解が分からなくなるんです。なのでリハーサルでは本番との差異を踏まえて最低限を作るぐらいに留める。もっと踏み込むとお客さんが入った環境変化にも合わせられるようになると良いですね。何故これが重要なのかというと、先程のアイドルの特殊性みたいな話にも繋がるのですが、大型イベントなどではリハなしで本番を迎えることもあって、そういう時にモニター環境が合わないなんてことも往々にしてあると思うんです。その場合にモニターが聞こえなかったら良いパフォーマンスができないの?という話になってしまう。100点の環境なら出来るのは当然で、そこにこだわりすぎるともっと厳しい環境では戦えなくなるんです。

■「僕は聴きやすい音が好きで、でかい音が好きなわけじゃないんですよ(笑)」

運営 なるほど。全然話変わるのですが、グミさん音がでかいってdisられることありますか?

 

グミ ありますよ(笑)。

運営 やっぱりあるんですね(笑)。グミさんは爆音PAというイメージを持たれていると思います。

 

グミ いつも勘違いされてて嫌だなと思うところがあって、僕は聴きやすい音が好きで、でかい音が好きなわけじゃないんですよ(笑)。関わっているグループがたまたまでかい音を出して欲しいと言われるところが多いだけです。ただ、お客さんに言われてもあまり気にしないようにしています。何故かというと僕の直接のお客さんはメンバーであり運営で、その人達とコミュニケーションして作った形なので、僕の仕事としてはこれが正しいと思っています。ただ、たまにもう少し小さくても良かったかなとか思うことはありますが。
 

運営 RAYもかなり音を出すのですが、ライブハウスっていう防音環境といいスピーカーの整った特殊な環境で、家とかで聞ける音量、迫力で聞いても仕方ないというような気持ちがあって。RAYのサウンドは大きい音で聞くと気持ちいいような音にそもそもなっているというのもありますが。

 

グミ イヤホンで大きくして聴くことが出来るレベルでいいのであれば、家や歩きながら聞けば良いですよね。それでは体感出来ない非日常な音を提供するにはどうしたらいいかと常に考えています。一方で音の大きさもただ大きくするだけではないと思っています。それが先程メンバーインタビューでも話した曲の中で変化をつけるという話だったりするのですが。
 

運営 ロー感を重視するグループは100hz以下のズーンという部分をブーストさせたり、RAYだったらギターの帯域を聞かせたり、音のでかさ、感じ方にも色々あると思います。

 

グミ 音の大きさも帯域特性もグループや曲によって違うべきで、ただ出せばいいということではないと思います。なので同じイベントででかい音を出したいグループが複数いても意図的に出し方を変えることがあります。ただ、どのポイントの音を出したいのか理解しないと無意味になってしまいますね。あと細かく言えばギターとか声の耳につく帯域はずっと聞いてるとしんどくなるので、そういったところは念入りに調整して長時間聞いても不快ではないけど、聴感上ではしっかり聞こえて体感出来るレベルにするという落とし所を狙っています。

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■パラメーター設定とリアルタイム調整のあわい

運営 RAYのこの曲はこういうパラメーター設定みたいな勘所は多分持ってらっしゃいますよね?

 

グミ そうですね。感覚的ですけど。

 

運営 名古屋クアトロワンマンでPAしてもらった時、PA卓見ていると、曲ごとにパラメーター設定していることに気づきました。PA卓にはメモリー機能があるんですが、当日披露の20曲くらいを全てメモリー設定していた。

 

グミ 一応設定は作るのですが、あまり決め打ちすると面白くなくなってしまうので、ほとんどの場合が感覚的に変えているかもしれないです。

運営 お客さんには届くかわからないような小さな工夫もたくさんされています。RAYでは例えば「moment」のラストで「もっと今だけを抱きしめて」と歌うパートがあります。オリジナル音源ではこの「めて」にディレイ(注:残響効果のあるエフェクト)がかかるのですが、グミさんはライブでリアルタイムにここだけディレイをかけて音源を再現しています。「星に願いを」では月日の朗読パートだけリバーブが深く、抒情的になります。4thワンマン「PRISM」の「TEST」では、ピンポイントでリアルタイムフィルター処理されているパートが2箇所だけありました。他に何かあったりしますか?

 

グミ 「わたし夜に泳ぐの」でブレイクの内山さんソロパートは少し深めにリバーブをかけ雰囲気作りをしています。アウトロに繋がるストップアンドゴーみたいなものをちゃんと作りたくて。あとABメロはオケの音量を少し下げていて。サビがユニゾンで声が出るのでそこで2-3dB(注:dB=デシベル、音の大きさの単位)ほどオケを上げてサビの広がりを出しています。あと最後のギターフィードバックについてはめちゃくちゃ音量を煽っています(笑)。

 

運営 トラックレベルでもラストのフィードバックは少し音量上げる調整をした記憶があるので、完全に運営側の意図と合っています(笑)

 

グミ 挙げたのはごく一部ですが、曲が流れた時に「あ、こうした方が良さそうだな」と思うことをやるようにしています。一方で、やっていた事を急にやらなくなる場合もあるんです。メンバーの声乗りが良くなったので、ここは余計なことやらない方がいいなと思ったり。その点では感覚的で決め打ちはしないようにしています。

 

運営 グミさんの真面目さの中の遊び心みたいなのが垣間見れて面白いです。

 

グミ 真面目じゃないです。飽き性なだけです。

■「めんどくさい運営」と築いた信頼感

運営 最後の話題で、グミさんとRAYの邂逅みたいな話なのですが。今でもよく覚えています。渋谷WWWで開催されたエクストロメのフォーマンライブです。あの時はまだメンバーに声量がなくて、僕は音をあげたいのに、ハウリングするのでどうしてもあげられない感じで、グミさんが「分かった分かったそこまでいうなら」と苦肉の策で歌のないパートだけ音量を上げるオペレーションをした。その結果、かなりいびつな出音になってしまっていました。

 

グミ あの頃は僕もアイドルPAの経験が多くなくて、よく分からずやっている部分がありました。かつ、あの頃のRAY運営は指示がすごく抽象的で、バランスを取るより「こうしたいこうしたい」という圧がものすごかった(笑)。当時は僕の技術や発想が乏しくて、そうするしか対応方法がなかった。今だから言えますがあの時は「めんどくさい運営だな」と思いました(笑)。

 

運営 なるほどです(笑)。あの頃は知識もなくてこちらからの指示、依頼の粒度も荒すぎたように思います。

 

グミ お互いそうだったと思います。

 

運営 ただあの日からすでにグミさんは色々アドバイスしてくれていて、声量のこととか、ギターの帯域と声の帯域がぶつかっているとか、PA側にもこういう事情があるとか。そういう色々臆せず言ってくれることに信頼感を感じて、それ以降はいろんなイベントでお世話になるようになったのだと思います。

 

グミ そう言っていただけるとありがたいです。

 

運営 用意していた質問は一通りお聞きできました。最後に言い残したことがあれば。

 

グミ うーん。僕は常にみんなが楽しくなればいいなと思って、そのためにどう立ち回ればいいかと考えているのですが。最初に挙げたコミュニケーションしやすい環境作りに繋がりますが、大人の言うことを「やらされている」状況にはしたくない。経験や知識を駆使したメニューは見せるけど、その中から選んでもらえるようにしたい。音って感覚的なもので、僕の知識や経験が全て正しいというつもりは一切ないので。それならまず「何か歌いづらいです」と言ってもらえたほうが「なんでだろう」と議論が生まれるじゃないですか。

 

運営 RAYメンバーも「これってどうなってますか?」とよくリハーサルでグミさんに質問しています。信頼関係がないとできないことだと思います。自分が分からないから聞いてるのに相手が分からなかったらもう聞かないだろうし、無愛想に対応されても聞かないだろうし。その時感じている疑問とかズレを解消してくれる人がそこにいるという信頼があるからできることだと思います。ライブでの音作りは、PA、メンバー、運営全ての方向に向かっての信頼関係がとても大事で、そのバランスを中心で担ってくれているのがグミさんという、こんな結論でインタビューを締めくくらせていただければと思います。ありがとうございました。

今回の運営インタビューでは、PAと仕事をする上での「トラックイロハ」「リハーサルイロハ」から、より詳細な楽曲ごとの調整の行い方、モニターに対する考え方など、より深い仕事術へと迫った。メンバーとの信頼感だけでなく、運営との信頼感も築くグミさん。メンバーインタビューでは、音響(会場PA、配信音響)の役割、各出力機器から出る音の違いや音を作る際の注意点の違い、メンバーとのコミュニケーションを介してより良い音を作っていく過程などが語られている。未読の方はぜひお読みいただきたい。

Special Interview 音響 大畑“gumi”修平さん 〜メンバーインタビュー編〜

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