Special Interview
サウンドエンジニア Yuya Tokunagaさん
メンバーインタビュー編
アイドルグループの音楽をライブハウスにおいて最大限効果的に観客に届けるのがPA(音響)だとしたら、その元となる楽曲自体を作り上げるのがサウンドエンジニアである。今回はRAYの楽曲を楽曲プロデューサーとともに二人三脚で制作してきた、サウンドエンジニアのYuya Tokunagaさん(徳永さん)にRAYメンバーがお話を伺った。ファンの目に触れることのない裏方であると同時に、音楽を中心としたRAYという活動体の核心を担うサウンドエンジニアの仕事について、是非知っていただきたい。
■サウンドエンジニアという仕事
甲斐莉乃(以下甲斐) 2022年5月8日開催のRAY 3周年ワンマンライブ「works」はRAYのライブや活動をすごく支えてもらっている関係者の方々にスポットを当てたワンマンライブとなっています。ワンマンライブに向け、関係者の皆様にインタビューを行っています。今回インタビューさせていただくのは、サウンドエンジニアの徳永さんです。
メンバー一同 よろしくお願いします。
Yuya Tokunaga(以下徳永) よろしくお願いします。
琴山しずく(以下琴山) サウンドエンジニアさんとはどういうお仕事ですか?
徳永 サウンドエンジニアはまず録音、いわゆるレコーディング(rec)ですよね。そしてドラムの音やギターの音など楽曲のバラバラのデータと、みんなの声をきちんと混ぜるmixという仕事、またmixされた音源の音量・音質・音圧を調整するマスタリングという仕事も行っています。
甲斐 徳永さんにはそのようにレコーディング、mixからマスタリングまですごく支えてもらっているんですが、他にもライブにお越しくださってサウンドチェックもしてもらっていて。具体的にRAYにはどのように関わってくださっていますか?
徳永 そうですね。まずはCDの音源ですよね。配信用の音源とライブで流す音源の調整っていうのもやってます。CDとライブで流れている音源(オケ)は違うバランスで鳴ってるんですよ。で、お客さんがノリやすいか、どういう聞こえ方にするかっていうのを運営さんと話し合って調整してますね。そういう関わり方だと思います。
■ライブに足を運ぶサウンドエンジニア
甲斐 ワンマンや対バンでお会いしてご挨拶はするんですけど、あんまりどういう仕事をしているかって実際はわからなかったので。
徳永 ライブの当日でいうと基本的には何も作業はしないですね。
甲斐 そうなんですか。
徳永 当日は基本的には作業をしなくて、会場でどういうふうに鳴っているかっていう確認と、細かいこと言うとメンバーの皆さんがちゃんとノレてるかなとか。それも聞かせる楽器によってノリ方とかって変わってくるので、そういうチェックっていう意味でライブは参加してますね。
甲斐 ありがとうございます。ライブで確認して、ここはこうだなっていう反省点をレコーディング、mix、マスタリングで活かしたりすることってありますか?
徳永 お客さんの入るキャパとかによっても箱(ライブ会場)での鳴り方が違うんで、低音の鳴り方とか調整してますね。何回かライブにお伺いしたんですが、実際に箱によって鳴り方が結構違っていて、さっき言ったみたいにノリが変わってしまったりとかがありました。あとはちょっと専門的な話になるんですけど、ライブ音源(下図①)の音量を思いっきり上げた状態でライブでは流してたんですよ。それをある時期からライブ音源の音量はそんなに上げずにおいて、PA(音響)さんの方で(下図④の)音量を上げてもらうっていうように変更して。それだけでもだいぶ変わったなっていうのがあって。多分そこからメンバーさんもやりやすくなったんじゃないかなと思ってます。
甲斐 わかりました!ありがとうございます。
■サウンドエンジニアのやりがい
琴山 サウンドエンジニアさんってすごく仕事量が多いと思うんですが、その中での難しさややりがいを教えていただきたいです。
徳永 そうですね。その曲によっての表情だったりとか、歌の表情が違うので、毎回のレコーディングで新しい音源が生まれて行くたびに、そういう音楽と出会えるっていうことが一番のやりがいですかね。他のグループさんとかでも、レコーディングでやることは毎回違うので。実は同じことをやっているように見えて、もちろんボタンを押したりする作業っていうのは毎回同じですけど、その中でどういうことをやってるかっていうのは全部違いますね。それは大変ではあるんですけど、やりがいですね。
琴山 もしレコーディングの時にすごく自分の好みの曲が来たら、いつもよりテンションが上がっちゃうということはあるんですか?
徳永 そうですね。あとは作業が早くなります(笑)、好みの曲だと。あらかじめ頭の中ではっきりと鳴っている音なので、それを形にするっていうだけ。ただ、歌の声量とか声の出し方とかが人によって違っていて、それはその曲のジャンルとまでは言えないですけど曲自体が変わってしまうぐらいの影響があるので、一概にその好みの曲が来たから好みの音にしますっていうわけではないんですけど。だからレコーディングの時に、どういう風な歌い方や声の出し方をしたほうがいいのかっていうのは運営さんと相談してますね。
琴山 ありがとうございます。
甲斐 楽曲をmixする時は、楽曲プロデューサーさんとの間で調整だったりやり取りだったりがあると思うのですが、RAYの楽曲プロデューサーであるメロンちゃんと他の方とではどういった違いがありますか?
徳永 これはですね、ものすごく違いますね。簡単に言うとすごく細かいです、メロンちゃんは。物差しでいうとみんなが1cm単位で見ているのをメロンちゃんはミリ単位で見ているみたいな。その分、やり取りの量はバーっと多くなるんですけど、そういうところが僕は好きですね。
甲斐 嬉しいです。
■正解を探し求めないという方法
琴山 同じ音源の様々なバージョンを聞くうちに、どっちがいいか分からなくなることがあると思うのですが、その時の判断はどういう風にされてるんですか?
徳永 正直、分かんない時はずっと分かんないですね。そういう時は一回寝て、映画観て、もう一回聞き直してですね。あとは、画面を見てどっちの音を流すかっていうのを自分で決めるじゃないですか。そうやってどっちが鳴るか分かっていると自分の頭が補正しちゃうことがあるんで、目を瞑ってどっちかわかんない状態で鳴らしてみて、単純に聞こえが良かった方にしたり。あと音量を思いっきり変えてみるとかで判断してますね。
琴山 いろんな工夫をしてくださってるんですね。
甲斐 時間を置くとちょっと見え方が違ってきたりだとか、ずっと同じ音を聞いていたり同じものを見たりしてると、なんだか感覚が鈍ってくることはあると思うんです。
初めて作詞作曲に挑戦した「ユメ」っていう曲のコーラスを作ろうとしていた時の話です。悩みながら数時間ぐらいずっと考えた後に「めちゃくちゃこのコーラス良い、かっこいい」って思って運営さんに送ったんですけど、なんかちょっとおかしかったみたいで。自分もその数時間後に聞いてみたらやっぱりへんてこだったっていうことがあって。やっぱりそういうことってあるんだなって思いました。
徳永 そうですね。正解、不正解っていうのは本当は多分なくて。何でもいいんですよね、全部が正解というか。でもそれが人のもとに届いたときにどう感じさせられるかっていうのは多分それぞれ違うんですよね。それは音楽っていうものを作る側の永遠のテーマみたいなところだと思います。
正解を探し求めてずっとやろうとすると路頭に迷ってしまうことが僕はよくあるんですよね。だから結構初めは感覚で、何も考えずにやりますね。正解のイメージはもちろんあるんですけど、じゃあ「なんとかの音にしよう」とか「なんとかにしよう」みたいなことは最初は絶対考えないで自由にやってみて。で、それを人に聴いてもらうとか。その方が面白いものができるんじゃないかなと思います。
■CD音源とオケ音源の違い
甲斐 冒険心があって、自分とちょっと通ずるものがあると思いました。
完成された歌入り音源として発売されるものとライブハウスでオケとして流すもので、mixについてはどのような違いがありますか?
徳永 さっきも話したみたいにライブハウスって結構大きい音じゃないですか?全部の音がはっきり聞こえるんですよ。一方でリズムとかってノリで、やっぱドラムのバスドラムの音だったりとか、ベースの動きだったりとかで雰囲気やノリができるんです。なのでライブの場合だとそこを主に出してます。具体的に言うとドラムを大きく出してます。で、低音の鳴り方で音が跳ね返ったりとかのバランスも考えつつやってます。
音源の場合は、メロンちゃんさんの意図を汲み取って「こういう音が好みなのかな」っていうのも考えてやってますね。
琴山 はい、ありがとうございます。自分の好みだけじゃ仕事が進められないこと、いろんな方の気持ちを汲み取らないといけないという部分があって、自分の好きなように出来ないことをもどかしく感じたりはしないんですか?
徳永 今僕が考えていることなんですけど、ありますね、正直。だからさっき言ったみたいに、一番最初に送るときは基本的に相手の細かい要望を聞かないです。ある程度のざっくりと言われたところは聞くんですけど、細かい所までは正直聞いてやってない。ここから組み立てていくっていうか。だから一回目で完成っていう風には思ってないですね。一回目を送った時には完成っていうのは目指してない。
琴山 何回かのやりとりがあって、完成に持って行くと。
徳永 多分これは普通のやり方じゃないと思うんですけど、RAYに関してはそういう風にやってます。
琴山 ありがとうございます。
■レコーディングで分かるメンバー歌唱の成長
琴山 内山結愛ちゃんからの質問です。徳永さんにはメンバーそれぞれ2年以上、結愛ちゃんの場合は5年くらいレコーディングでお世話になっているんですが、これまでメンバーの歌をたくさん聞いてくださった中で、それぞれの成長や歌声の変化などはありますか?
徳永 うーん、すごい専門的なことで言うと、声の低音の感じとかっていう違いはもちろんありますね。昔の音源とか聞くと、結愛ちゃんすごい若いっていうか。なんて言うんですかね……若い声っていうか?悪い意味で言うと味がない声というか、昔はね。今はこう、味が出てきてるっていうか。
あとはメンバーの音程とかリズムとかっていうのは、確実に上手くなってると思います。すごくビッチリ合ってるんで。レコーディングの時のディレクションも本当に細かく実はやってて、RAYは何回も歌うじゃないですか。そうしないレコーディングももちろんあるんですよ、世の中には。
メンバー一同 えー!
徳永 だけど、何回も歌うことでいいものが生まれるんだったら絶対やった方がいいし。そういうステップを踏んで、絶対上手くなってるって多分自分たちでも思っていると思うんですけど、上手くなりました。すごく。
甲斐 嬉しい。
琴山 ありがとうございます。
甲斐 mixやマスタリングをする際に、メンバーの元のテイクから、音程やピッチだったり細かな調整だったりをどのぐらい行っているのか気になります。
徳永 あんまりしてないです。微妙な長さを調整したりはするんですけど、思いっきり調整するみたいなことはしてないですね。だから、してるといえば音程とかリズムとかではなくて、声のボリューム。実は人間の声って思ってる以上に、歌っているとすごい大きくなったりすごい小さくなったりしてるんですよ。なのでボリュームを平均化させて、あとはメンバーが4人いるので声の質感を調整して。高音が強い人、低音が強い人っていうのを揃えてあげないと、聴いてる人は分かんなくなっちゃうんでその調整をしてますね。あとはエコーとか。すごく重要なところですよね、RAYの楽曲に関しては。
■レコーディングにまつわる思い出・苦労話
甲斐 もう一つ質問なんですが、これまでレコーディングしてきた中で記憶に残ったりグッときたりしたテイクはありますか?
徳永 ちょっとパッと思い浮かばないですね。何かありますか?逆に。
甲斐 自分はこの前エイプリルフールに乗っかって、「サテライト」を可愛くアレンジしたポップめのオケに合わせながら、すごくぶりっ子でかわいい感じに歌うレコーディングに挑戦して。普段は何回も録るけど、ほぼ一発録りで。電波っぽい女の子みたいなイメージで歌ったのが楽しかったです。
徳永 楽しかったですよね。あの曲に関してはもうめちゃくちゃいじりました(笑)。
(メンバー一同笑い)
徳永 歌った声をコピーして、その音程を変えて重ねてハモリをつくって。だから第5人目の声が乗ったりだとか、よく聴くと面白いと思います。
甲斐 ありがとうございます。
徳永 なんかありますか?(琴山に向けて)
琴山 そうですね……感情を乗せて歌うのが苦手だから、レコーディングでは毎回「感情乗せて」って私はよく言われちゃうんですけど。ただ最近、ちょっと自分でも「感情を乗せれたかな」と思ったときにオッケーって言われて「やったー!」って思うことがあって、そのレコーディングが印象的です。
徳永 ありがとうございます。
琴山 ありがとうございます。徳永さんはいつも座っているイメージがあって、サウンドエンジニアという職業柄、座って作業されることが多いと思うんですけど、何か腰などの身体のケアはされていますか?
徳永 してないですね……結構本当に座ってて身体痛いなって思うことはあります。あの、これ言っていいかわかんないですけど、座りすぎて僕痔になっちゃって(笑)。で、手術したんですよ(笑)。
甲斐 結構重症だったんですね。大変ですね…!
甲斐 今は治ってますか?
徳永 今は治ってます(笑)。
甲斐 よかった(笑)。
琴山 じゃあ座れなかったんですか?
徳永 座れなかったです。もうずっと2日ぐらい横になってて、無理ーって。やばくないですか?痔の話してるの(笑)。
甲斐 大丈夫です(笑)。
琴山 それほど仕事を頑張ってらっしゃるっていうことで。
甲斐 ありがとうございます、痔になるまで。
琴山 それでは今日はサウンドエンジニアの徳永さんにインタビューをさせていただきました。
メンバー一同 ありがとうございました!
徳永 ありがとうございました。
今回のメンバーインタビューでは、サウンドエンジニアの仕事の概略から、より良い楽曲に至るための苦労や工夫、レコーディングを通じたメンバーとの関わりまで伺った。正規音源とオケ音源を適切に差異化するためにライブハウスにまで足を運ぶYuya Tokunagaさん。運営インタビューでは楽曲プロデューサーと協力した楽曲制作過程の詳細、音作りの思想についてより深く迫っていく。