Special Interview
撮影 二宮ユーキさん
スイッチング 加賀誠人さん
運営インタビュー編
グルーヴ感とチームメンバー相互の信頼感を元に、目の前で起こる現象を切り取っていく撮影・配信チーム。今回は過去のRAYのワンマンライブ3回に関わっていただいた撮影監督の二宮ユーキさん、スイッチャーの加賀誠人さんに運営がお話を伺った。「ニノミヤワークス」と「加賀スイッチング」の魅力、チーム内協業の実際、そしてコロナ禍における映像表現の進化について迫っていく。
■写真を専門としていた過去、現在の多岐に渡る仕事
運営(コンセプト等担当・古村) はい。運営の古村です。よろしくお願いします。
二宮ユーキ(以下二宮) よろしくお願いします。
加賀誠人(以下加賀) よろしくお願いします。
運営 メンバーインタビューむちゃくちゃ面白かったです(笑)。僕の方からはちょっと人となりみたいなところも含めて、経歴からお聞きできたらなと思っていまして。まずニノミヤさんにお伺いしたいんですけれども、現在撮影もしくは撮影監督というお仕事をされているわけですが、どういった経歴・経緯というか、流れで今のお仕事をされるようになったんでしょうか。
二宮 もともとは写真の人間なんですよ。動画じゃなくて写真畑の人間で、大阪の写真の専門学校に行っていて。写真関係の仕事をしつつ東京に来て、東京に来てもライブ写真やアー写、ジャケ写などの写真の仕事をしていたんです。
で、一眼レフで撮ってるわけじゃないですか。ある時、一眼レフでムービーがめっちゃ撮れる時期が来たんですよ(笑)。技術がすごい発達して一眼レフでムービーが撮れるようになって、せっかく撮れるんだったらライブもムービーで撮ろうかなというのがきっかけで、ムービーを撮り始めてライブ映像を撮るようになって。10年くらい前です。
運営 アイドル以外にはバンドさんを撮られてたりとか?それこそライブアイドルがドカッと盛り上がったのが2010年代だと思うんですけど、最初からアイドルを撮られていたわけではなく?
二宮 最初は圧倒的にバンドです。インディーのバンドのライブ写真とライブ映像とかが圧倒的に多いです。
運営 それを見て気に入ったアイドル運営とかに声を掛けられたみたいな流れなんですかね?アイドルを撮ろうと思ったのは。
二宮 きっかけは多分、大森靖子ですね。大森靖子のスタッフもやっていたんで、今もやってるんだけど、当時、2012年、2013年辺りだと大森がBiS(注:2010年に第1期がスタートし、ライブアイドル文化に多大な影響を与えた女性アイドルグループ。Brand-new idol Society(新生アイドル研究会))とかとコラボしたりとか。大森がTIF(注:TOKYO IDOL FESTIVAL。日本最大級のアイドルイベント)に出てアプガ(注:アップアップガールズ(仮)。2011年から活動する女性アイドルグループ)とかアイドル周りとコラボするみたいな、そういうのがあって、アイドルさんたちと関わるようになって。徐々にアイドル仕事が増えていった感はあります。
運営 なるほど。今大森さんのお名前が出ましたけど、近年ではZOCさん(2018年に結成された女性アイドルグループ。2022年7月にMETAMUSEに改名予定)とかも含めてニノミヤさんの仕事はとても多岐に渡っていて。RAYファンの方はもしかしたら「RAYの撮影をしてくれている人」というイメージが強いかもしれないんですけど、例えばMVとか、MV以外の本当に様々な動画コンテンツ、そしてジャケ写を始めとするスチール写真(注:静止画写真)など、いろいろなコンテンツの撮影をされています。撮影という言葉では共通なんだけれども、結構撮影の種類によって意識やモードの使い分けがあるものなのでしょうか?
二宮 違いますね。結構自分の中で軸だと思ってるのがライブなんです。なのでライブ写真、ライブ映像・ライブムービーが軸にあって、そこと別の感覚を使ってMVとかアー写を撮るというのはありますね。
運営 今日のインタビューの前にちょっと掘ろうと思って(笑)、ニノミヤさんの公式サイトを見させてもらっていたんですけど、本当にお仕事が多岐に渡っていて。これは「いろんなことをやってやろう」みたいに、仕事の幅を広げようと意識的にいろんなお仕事を受けられているのか、それとも自然な感じでそうなったんでしょうか。
二宮 どっちもありますね。元々は本当にすごいいろんなバンドを撮りたかった。もうライブハウスで会うバンドでめっちゃカッコいいバンドを見たらとりあえず声をかけて、「写真撮らせてください」みたいな感じでバーッと広がっていった流れがあるので、元々はそこですね。今は大分、普通に仕事として声を掛けてもらうことが多くなったんですけど、やっぱりどんどんいろんな方向に広がっていきたい気持ちはあります。
■「手応えを本当に強く感じるのは、やっぱりライブで一カメで回してる時なんです」
運営 そういった多岐にわたるお仕事で、言うなれば「ニノミヤワークス」について、長所というかアピール点というか、もしくは視聴者にこれを感じてくれたら嬉しいみたいな、お仕事全体に渡る思いみたいなのってあったりしますか?
二宮 自分でやっているという手応えを本当に強く感じるのは、やっぱりライブで一カメ(注:一つのカメラ)で回している時なんですね。一人で全部撮っているのが、人によって合う合わないがあるんですけど、すごく自分の仕事をやっているな感が一番本当は強いです。チームで動くのはそれはそれで面白いんですけど。元々が一人でやっていたので。
加賀 ちょっと茶々入れていいですか?僕もニノミヤさんの映像、一カメで長回しして、寄ったり引いたりっていうのを最初見たとき衝撃だったんですよね。これはすごいなと思って。
でもある意味スイッチングの仕事というのはそれを切っちゃう仕事でもあるので(笑)、たまに「あーニノミヤさんのワーク(注:撮影している映像)を生かしたかったな」って。でも結局同じタイミングでカットを切りたくなっちゃう(注:映像の変化をつけたくなっちゃう)ので、僕がスイッチするとニノミヤさんがその瞬間にガッて引いたりみたいな。ただそこはね、本当はもうちょっと生かしたいなっていうところもあったりはします。
二宮 究極こうなると、本当に一カメになっちゃう(笑)。
運営 今の一カメの話でちょっと思い出したんですけど、ニノミヤさんが一カメで撮影・編集された元アンジュルム(2009年から活動する女性アイドルグループ。旧スマイレージ(S/mileage))の和田彩花さんの映像で、「かなでめぐる Playing around Shindaita」っていう雨の日に散歩して新代田FEVERに向かう映像がすごく好きで。ずっと手持ちカメラで撮っている映像で、ライブハウスに着くところで映像が終わります。ライブハウスではその映像が流されていて、映像が終わるとともに和田さんが入場してライブがそのまま始まるんですが、新しいなあ綺麗だなあと思って。あれは和田さんの発案なんですか?
二宮 あれは和田さんの発案もありつつ、マネージャーさんというかプロデューサーさんの発案も含め、みんなで話しています。こういう風にしたいなというのが漠然と取りあえずあって、そこにニノミヤがRAYの場合と同じくなんですけど噛み砕いて(笑)、「じゃあこうやって、こうやっていこう」というのを作り上げている感じです。
運営 今までお話を聞いてると、ニノミヤさんの中でライブ映像というものが重要な位置を占めていると強く感じるんですが、今挙げた「かなでめぐる」のような、ライブ映像の拡張版みたいなものって自身で考えられたりとか、こういうの撮ってみたいなとかあったりしますか?
二宮 あんまりそれがなくて。基本はやっぱり、自分の性格的に、ライブとか起こる現象を撮るのが一番好きです。逆にそうやって、MVだったりとか演出を考えるのは正直苦手です。
運営 相談したらいつもめちゃくちゃ的確なことを言ってくれるので、意外です(笑)。すごいすごいと思ってました。
二宮 苦手だけど、やっぱり作った時に面白いというのはあります。違う脳みそを働かせてる感じで。
運営 ロケとかって興味はあったりします?
二宮 ロケは好きです。
運営 旅ロケというか、どっかに行ってみたいなのもたまにされている感じなんですか?
二宮 旅ロケみたいな感じはないけど(笑)、MVとかでどっか遠くに行くようなロケは好きです。あんまり普段行かないところに行くのが単純に好きなんです。
■映像配信の上流から下流まで、映像配信機器の自作も
運営:続いて加賀さんにお伺いします。メンバーインタビューでもお話があったように、スイッチングだけをしているわけじゃなくて、配信にまつわることもなさっている。あとnoteを見ましたら「フリーのWebエンジニア&映像配信屋さん。映像配信機器の自作と販売も。」という文字列が並んでて、「これはなんだ?」と(笑)。
加賀 いわゆる社会人的なところスタートで言うと、1993年とかにアスキー(注:現在はKADOKAWAグループの一事業)っていう会社に潜り込みまして、当時はCD-ROM付きの雑誌やムック本みたいなのがはやってた時代で、最初はその編集部でCD-ROMタイトルのオーサリング(注:動画や画像データ、アプリケーションをCD-ROMなどのタイトルに変換すること)とかをやっていたんですよね。その時にQuickTimeとかVideo for Windows(注:ともに動画が再生可能なソフトウェア)などが出てきて、当然映像素材もコンテンツとして入れ込まなきゃいけないので、「じゃあ車に豆カム(注:カメラ部分とレコーダー部分が長いケーブルにより分離したビデオカメラ)とか載せて撮ったら面白くない?」みたいな。そういうのをやっていたりしてたんですよ、最初は。
で、97年にRealVideoという映像を配信できるソフトウェアが出てきたんですよ。この頃はインターネットが出てきて、当時の総務省のデータだと世帯普及率5%ぐらいの時期です。「これを使って何かやったら面白いよね」と考え、当時僕はインターネットをネタにした雑誌の編集部にいたので、友達のミュージシャンのライブをこれで配信したら面白いんじゃないかなと思って。仕事として毎月やるために連載ページを奪い取って、当時南青山にあったMANIAC LOVE(注:「テクノの総本山」と称され、2005年に閉館)というクラブから実際にRealVideoで配信するようになりました。当時はサーバーも自分で構築しなきゃいけなかったので、その辺りは一通り上流から下流まで全部やっていました。
運営 映像系の入りはそれがスタートと。
加賀 その後00年代の後半になってUstream(注:ライブ配信ができる動画共有サービス)が出てきた時に、友達がやっているトークイベントだったり、友達のミュージシャンがやっているライブを配信したりするようになりました。最初は友達のイベントの配信だったので、ビールをご馳走になるくらいで基本的にタダでやっていたんですけど(笑)、いつしかそれを見た人が仕事として発注してくれるようになったんです。
当時は音楽系のライブ配信はほとんどなく、最初はトークイベントが9割ぐらいでした。ただスポンサーが付いていてちゃんと予算が出るイベントや、メジャー系アーティストのファンクラブ限定配信のようにちゃんと原資がある案件みたいなのは音楽系でもたまにあって、そういうのに呼ばれるようになって。
そうしていたら2017年に、メジャーの配信案件で一緒になった人から「加賀さん、アイドルとか興味あるんだよね?アイドル系の配信で相談があるんだけど」と言われて。当時僕はももクロ(注:ももいろクローバーZ。2008年に結成された女性アイドルグループ)とかに通っていたので。その人は徳間ジャパンの人で、アイドル系の配信というのがMaison book girl(注:通称ブクガ。2014年に結成された女性アイドルグループで、2021年活動終了)だったんですよ。そこでブクガを観に行って、そこからもう、ドッツさん(注:女性アイドルグループ「・・・・・・・・・」の呼称の一つ)を含めて急展開というか。一気にアイドルにガーッと個人的にハマって。
運営 なるほど。そういった経緯で徐々にアイドル配信をするように。ちなみにドッツが出てきたのが2016年ですね。
加賀 ただそうは言ってもアイドル系の配信はあまりなかったので、コロナが流行する前の配信はアイドルで言えばブクガさんと他のグループさんの2件ですね。あとはライブ撮影と編集ぐらいだったのが、コロナになって一気にガーッと増えた。
運営 ニノミヤさん、加賀さんのお二人がチーム的な関係になったのは、いつ頃でどんなきっかけがあったんですか?
二宮・加賀 コロナですね。
二宮 加賀さんの存在自体は知っていたんです。加賀さんはリモート雲台(注:三脚などに取り付けカメラを固定するための部品)を作ってる人ってイメージで(笑)。映像界隈では何かヤバいものを作ってる人がいるって知られていました。
加賀 アメリカのメーカーが出していて100ドルぐらいで買える安い電動雲台があるんですけど、それを無線でコントロールできるやつを細々と売っていたんですよ。
運営 加賀さんのnoteを見てみると、配信についての思いみたいな記事に混ざって、「こんなの開発した」みたいな記事が混ざっていて(笑)。DIY精神がすごいなって思ってました。
二宮 加賀さんのことは知っていたけど、仕事として関わりあったのは本当にコロナ以降ですね。
加賀 そうですね。多分一番最初に現場で一緒になったのはnuance(注:ヌュアンス。現在はNUANCEの表記。2017年に結成された女性アイドルグループ)の時ですよね。
二宮 あー、別の監督さん仕切りの時に。「あれが雲台作ってる加賀さんだ」って(笑)。
加賀 本格的に一緒にやったのは、同じく2020年3月のNILKLY(注:ニルクライ。2019年に結成された女性アイドルグループ)の無観客配信。
運営 話題になりましたね。
加賀 Crest(注:渋谷にあるTSUTAYA O-Crest。現在の呼称はSpotify O-Crest)でやったやつ。そこがちゃんと一緒にやった最初。
運営 本当に最近ですね。
二宮 ニノミヤもコロナが流行する前は、たまに別の方に配信に呼ばれてカメラやることはあったんですが、自分では収録というか撮って編集したものを出すのがほぼほぼだったので。
運営 やっぱり本当にコロナがチーム化を進めたんですね。だとするとまあ、コロナも悪くないですね(笑)。
二宮 そこで良い変化が起きたというか。
■「加賀スイッチング」の見所、グルーヴ感
運営 先ほどニノミヤさんには「ニノミヤワークス」で観てほしいところは?という質問をしたんですけど、加賀さんにも「加賀スイッチング」の魅力をお聞きしたいです。メンバーインタビューである程度伝わってはいるんですけれども、改めて見所はどういったところでしょうか?
加賀 正直言うと、自分であんまりちゃんと言語化できてはいなくて。ただ後で自分のスイッチングを見返したりすると、「ここでカットする」みたいなタイミングは絶対変わらないというか、変な話、見返しても予想できるみたいなところがあって……何なんでしょうね?
なんとなく自分で感じているのは、もちろん音楽ものなので音楽的なグルーヴも大きいんですけれど、アイドルものの場合はそれ以上に、ダンスの動きみたいなのをすごく意識しているところがあるんじゃないかなと思っています。
運営 第三者としての変な視点での物言いになるんですが、フォーメーション全体とか、歌っていないメンバーとか、もしくは足元や指先など身体の細部を映す際に、一方で「歌っているアイドルの重要性」やそもそもの「アイドルの『顔』の重要性」ってあるじゃないですか。だからアイドルの顔からカメラを外すことについて、「もっと顔映してくれよ」みたいに言われないのかなってのは気になります(笑)。
加賀 ありますね。
二宮 めっちゃあります。コメントとかにめっちゃ書かれますよ(笑)。
運営 (笑)。
加賀 グループさんによっては、一番人気のセンターの子の歌割りが少ないみたいなことがたまにあって、そうするとどうしても自然に映らなくなっちゃうので。そういう場合はやっぱり意識してテイクする(注:画を採用する)ようにしていますよね。
二宮 撮影上もやっぱりありますね。あんまり歌割りばっかり追いすぎるとバランスが悪くなっちゃうので。
運営 加賀さんのスイッチングを配信で観ると、歌っているメンバー以外や顔以外の部分をよく映しているけれど、実際現場にいたってずっと推しやその顔を観ているわけじゃないよなって思うんですよね。推しメン以外に目移りしたり、場合によってはわざと見たりすることもあるかもですが(笑)、あとはぼやっと見たりフォーカスして見たりとかって普通にやっていて、逆に加賀さんのスイッチングの方が自然なんじゃないの?って思える良さがあって。
加賀 自分でライブを観ていても、やっぱりその時その時で注目している所ってあるじゃないですか。そういった、オタクがフロアで見ている光景をある種再現しているようなつもりもちょっとありますよね。僕は「脳内スイッチング」と呼んでいるんですけど(笑)。
運営 RAY 4thワンマンの「PRISM」の後に、いつも通り運営が長文ツイートをしました。その中で「配信のスイッチングで足元の映像を観て欲しい」みたいなツイートをしていて、もちろん配信の販促って意味合いもあるんですけど、それ以上に本音として本当に伝えたかったことというか(笑)。指先とか足元とか、言うならば勇気を持って「顔」以外を抜いてくれるっていうのは、逆にメンバーも嬉しいと思うんですよね。
あと先ほどから出ているグルーヴという話なのですが、実際に加賀さんがスイッチングしている所を見たら分かるというか(笑)。動画で撮りたいですもん。本当に揺れている、単なる抽象的なワードじゃなくて、本当に「グルーヴィってる」というか。
加賀 そういう意味では、僕、基本的にスイッチングする時は立ってやってるんですよね。立ってやれるような準備をしていっているので。でもやっぱりたまに、大きい会場とかフロアに場所がない場合に、スイッチングを別室や裏の通路みたいな所でやることがあるんですよ。やっぱりそれだとすごく冷静になっちゃうので、ちょっとノらないですよね。カメラもきっとそうだと思うんですけど、やっぱりあの音圧を浴びることが重要というか。
二宮 そうですね。逆に、耳を完全に塞いで本当に音を聴かずにカメラを撮れって言われても撮れないです。
加賀 やっぱり現場にいるから出来るもの、といった感じはすごくしますよね。
運営 一回、スイッチング中の加賀さんのノっている様子を見て、「客席か!」って思いました(笑)。
二宮 めっちゃ沸いてるって(笑)。
運営 でも嬉しくなりました(笑)。
加賀 ステージ上だとフォーメーションによっては返しの音が聞きにくい場所ってあるじゃないですか。それでリズムが取りにくい時に、「加賀さんの方を見たらリズムが分かる」とあるグループのメンバーから言われたことがあります(笑)。
■撮影・スイッチングから見たRAYと他のアイドルグループの違い
運営 撮影やスイッチングについて、メンバーインタビューでは演出レベルについてRAYの運営はちょっと細かいというお話があったんですけど(笑)、現場・ライブレベルの撮影・スイッチングでRAYと他のアイドルグループさんとの違いってあったりしますか?
二宮 言葉にするのが難しいけど、何か他のグループとは違うかっこいい部分というのがあって、それをどう撮影上で表現しようかというのは思いますね。言語化が難しいですが。
運営 いえ、すごくありがたいお言葉です。
加賀 ダンスのフォーメーションとかもグループによって全然違うじゃないですか。RAYはやっぱりちょっと独特だなーという感じがあって、ちょっとうまく説明は出来ないんですけど、それを伝えられていたらいいなというのは思いますね。
二宮 確実に異質な感じはあります。
加賀 それでいて、一見ダンスとかクールなんだけど、メンバーの表情が豊かだったりとか、特に楽しい曲だとすごい笑顔になるみたいなのは、とても良いなと思いますよね。
運営 ありがとうございます。
■ワンマンにおける撮影打ち合わせの流れ
運営 ここからは別の段落というか、撮影・スイッチングについての擦り合わせの部分のお話をしたいと思っていまして。今回のワンマンは「works」というタイトルでやっているんですけれど、worksにはいろいろな意味があり、1つはアウトプットされた作品群というもの、一方で内部の機構・メカニズムといった意味もあるんです。その文脈から、作品がアウトプットされるまでの、出力までの過程みたいなものも読者の方に示せれば良いなと思っています。
というわけで、仕事のご依頼から当日までの流れについて、少し運営の方から簡単にお話をさせてください。RAYのワンマンで配信やBlu-ray化のための収録をしたいと考え撮影班を入れようという話になった場合、基本的には直接オファーするというよりは、制作(注:運営を含む演者側とスタッフ陣を繋いでくれる役職。その他多彩な仕事内容を持つ)を介しての打診となります。その制作を介して、例えばLINEグループが作られている。
先ほどのお話でもありましたけど、そのLINEグループで運営から投げるご質問・ご相談にはニノミヤさんにご対応いただいている。グループで適度にやり取りした後、ゲネの前に一回他のスタッフ陣も含めた演出会議があり、更にゲネ後にRAYは演出含め内容が結構変わっちゃうので、本番の前にもう一回演出会議があります。これは制作の田村さんに「ちょっと多いんじゃない?」と言われたことがあるんですけど(笑)、演出が複雑なので是非お願いします、と。あとは当日リハと本番です。
以上がRAYの場合の基本的な流れなんですが、演出の複雑さ自体を横においておけば、大体他のアイドルグループさんも同じような動きなんでしょうか?
二宮 全然違います。
運営 えっ、違うんですか?(驚き)
二宮 全然違います。
運営 えっ、本当ですか?(困惑)
加賀 他のグループはなんだろう、いきなりただ体だけ押さえられてって感じですよね。
二宮 そんなに打ち合わせしない。
加賀 下手すると、先ほどもお話ししましたけど、セトリすら来ないみたいなこともありますから。
二宮 なので本当にグループによるんだけど、そういう意味でRAYの運営さんはめちゃめちゃ特殊です。
加賀 細かすぎるぐらいですよね(笑)。
二宮 もちろんあれは面白さだなと思うし、そこはね、なんか失ってほしくない(笑)。
加賀 そうですね、貫いてほしい(笑)。逆にだからこそ、こっちもどうしようかって考える時の一本の補助線にやっぱりなっているので。それがないと結局自分たちで考えなきゃいけないんですけど、ちゃんと運営さんとして「こういうものを見せたい」みたいなのがあると助かります。たまに分かんないこともあるんですけど(笑)、樹形図、樹形図って言われても……。
二宮 樹形図って何?みたいな。
加賀 樹形図が完成されるってどういうこと?って(笑)。
二宮 本番までわからなかった(笑)。
運営 注で説明を入れておきます(笑)。
(注:「樹形図」とは、4thワンマン「PRISM」の演出でプロジェクションされた、以下の図ような楽曲の相関を描いたスライドのこと。元々は楽曲名を並べるだけでなく、楽曲名を線で結んで幾何学的に配置する予定であったため運営内で「樹形図」と呼ばれていたが、最終的な形に落ち着いた後も名残で樹形図と呼ばれ続け、その都度「厳密には樹形図ではないんですけど」と演出会議で説明され困惑を生んていた。当日になっても樹形図と呼ばれていたが、何にせよ樹形図では全くない。)
これが樹形図
二宮 だけどやっぱりそこはすごいなと思います。他とは全然違いますね。
運営 打ち合わせが一回多いぐらいかなと思っていました。
加賀 ない場合の方が多い。
二宮 ない場合の方が多くて、そこまで運営さんがしっかりイメージを持っていることの方が逆に少ない。
運営 一応5月8日のワンマンライブでも2回打合せを予定しておりますので、よろしくお願いいたします。
二宮 ぜひ。
■撮影・配信チーム内でのアサインと調整の様子
運営 そういった大まかな流れがあってニノミヤさんが窓口となっている。撮影チームがぼんやりあるとのことですが、LINEグループみたいなのがあって「何日行ける人手挙げて」みたいな感じなんですか?
二宮 そういう感じじゃないですね。単純にその日が空いてる空いてないはあるんですよ。ただそれに加えて、「このグループだったらこの人が合う、この撮り方が合う」とか、「この会場だからこういうカメラ配置になるからこういう人選かな」というのをニノミヤが決めて、個別に「この日空いてる?」って。
運営 個別連絡なんですね。
二宮 個別連絡して決まった人でLINEグループをそれぞれ案件ごとに作ります。
運営 なるほど。わかりました。
加賀 そうですね。逆に他のグループで僕が受注する場合とかもあるんですけど、同じように「この演者さんでこの会場だったら絶対ニノミヤさんに入って欲しい」とか「誰々入ってほしい」とか。それぞれ撮る画の得意・不得意みたいなのがあって、キャラもあるのでそれで選びますよね。もちろん無理な場合もありますけど。
運営 完全に適材適所というか、マッチングする人材を選んでくださっていると。
RAYの演出の指示が細かいみたいなお話で、テキストベースのコミュニケーションで監督から他の人たちに指示が伝わりきるのかちょっと疑問だったんですけど、LINEグループの内での通話とかされるんですか?
二宮 通話まではしないですけど、一回送ってもらった資料をある程度咀嚼してかみ砕いてからLINEグループに投げます。ただ多分、カメラマン各々が全部を把握することは正直ないんですよ。それで「ここが重要。ここが重要。」とニノミヤがポイントで伝えて、ここだけは押さえようというのをチームで共有してます。
加賀 それを受けつつ、場合によっては僕も現場で「じゃあこの部分はこのカメラにこれ撮って欲しいな」みたいのをちょっとお願いしたりします。でも本当にちょっとだけですよね。
二宮 カメラマンごとにやっぱり個性もあるし、単純に資料を渡しても絶対見ないだろって奴もいるけど(笑)、でも良い画は撮ってくるみたいな奴がいるんで、全部伝えると逆に伝わらないから「ここ」っていうポイントをそいつに届くように投げるみたいな。
加賀 あと僕もそうですけど、具体的な指示がたくさん降っちゃうとそれに引っ張られちゃうところがあるんですよね。
二宮 ガチガチになりすぎちゃうんだよね。なので受け止めて要点だけを伝えるようにしていますね。
運営 今度の5月8日のワンマンで、カメラ台数や人員をどんな配置にしようかといった構想を語っていただきたいです。
二宮 場所がセレネ(注:白金高輪SELENE b2)ですよね?自分の中である程度、セレネの中で出来る配置というか布陣があるんで。分かりやすく言うと、最前列に三カメで三カメのうち一人はジンバルで、後ろはめっちゃ寄りの超望遠カメラと、めっちゃ寄り引きするカメラみたいなので、あとは+αでどこか面白みを足すか、逆にシンプルにその各々のワークで魅せるかみたいなことを考えてはいますね。
運営 なるほど。それをこの記事で事前に知ってるのってちょっと面白いと思います。
二宮 単純に箱(注:会場)の作りとして、会場ごとに適切な配置がありますね。例えばリキッドルーム(注:恵比寿LIQUIDROOM)だとクレーンを入れることが出来るんだけど、逆にセレネでクレーンを入れたらただ邪魔なので。結構会場との相性とかもありますね。
運営 人数や配置が最終的に決まるのって結構直前なんですか?
二宮 ニノミヤは大体、本番前の1週間前後で決めようと思っています。
運営 それが決まった後の残り1週間で、事前の取り決めというかすり合わせがどれくらいあるのか僕らの方からは全然見えないので、例えば楽曲単位で何か指示があるのかとか、もうちょっと荒い粒度なのかとか、どんなコミュニケーションが行われているのかお聞きしたいです。
二宮 コミュニケーション的には本当に先程お話ししたように、曲ごとにもなるんだけど「ここからここのパートはこういう意味があって」という感じですね。1週間より前にカメラマンに早めに伝えちゃうと忘れるんですよ(笑)。なので日数がある程度近づいてきたら、一回かみ砕いた部分を「ここはこうだよ。ここはこうで」ってもう一回確認します。あとは当日にリハをやりつつ、「ここはこうだね」って。
加賀 当日リハが一番大きいです。
運営 当日のリハで具体的な雰囲気をバーッとすり合わせていくと。
加賀 しかも当日リハって全部やるわけではないじゃないですか。だからカメラマンによっては「あれ?なんか同じ曲またやってる?」みたいに、本番のときに被害が(笑)。
(注:4thワンマン「PRISM」では一部の楽曲群が、アレンジを変えて反復されパフォーマンスされた。)
二宮 「この曲、さっき聞いた?」って(笑)。
加賀 っていうこともありまして、それは伝えてたはずなんだけど読んでないみたいな。
二宮 「アレンジが違う曲がいっぱいあるよ」みたいな(笑)。そういうこともあった。
運営 カメラマンさんにも混乱を生んでいたと(笑)。
二宮 やっぱり現場ですり合わせないと完全には連携が取りづらいので、なんだかんだ当日のリハで最終的に決定します。
加賀 ある程度リハが長い方が嬉しいですよね。
運営 RAYのリハは、あの演出にはちょっと時間が短いところがあるかもしれません(笑)。
■「配置はカメラマンの性格に合わせ、『ここは逃すなよ』だけ伝えて後は遊ばせる」
運営 加賀さんのnoteを拝見していたら、ライブ中にカメラマンが、自分のカメラ映像がスイッチャーに採用されているかどうかが分かる仕組みがあるのを知って。そういった、カメラマンがスイッチャーに採用されているかどうか分かるとか、スイッチャー的にはこの画を撮って欲しいとか、ライブの最中の意思疎通はどう行われているのでしょうか?テクノロジー的な補佐があるのか、それとも今のRAYが演っているような会場の規模感では、完全に阿吽の呼吸なのかどんな感じなんでしょう?
二宮 今は一応インカム(注:イヤホンマイクやヘッドセットを装着して相互に会話ができる通信機器)があります。ヘッドセットでマイクを付けてて。
加賀 全員じゃない場合もあるんですけど。
二宮 9割方は付けてますね。
加賀 僕がダメなんですよ(笑)。何がダメかというと、やっぱり僕は音楽を聞いていて欲しいんですよね。言語的な情報が入っちゃうとやっぱりノイズになっちゃって、絶対グルーヴ的には悪くなっちゃうんで。指示をこちらから出すとしたら「画が来てない」とか。
二宮 トラブル対処のために、という場合が多いですよね。
加賀 あとはRAYではないんですけど、スローな曲で「クロスフェードしたいから右側を開けて欲しい」みたいな指示を出すことはたまにあります。言う人は言うけど、僕はあんまり言わないキャラですね。「良いよ、今の良かったよー!」とか言う人もいる(笑)。
二宮 他だとめちゃめちゃ言う現場ありますね。本来的には監督が画面の前にドシッと座って、「このカメラ次にここ行って」みたいな指示を普通リアルタイムで出すので。なので結構、本当に言葉が飛び交っている現場も多いですね。武道館みたいなでかい会場に撮影に行くと、常に「誰がどうどう」みたいに(飛び交っている)。
加賀 逆に言うと、指示がないと撮れない人たちっていうのもやっぱりいるので。でもどちらかというとニノミヤチームは勝手に撮りたいものがある。
運営 自律的に。
加賀 もちろんある程度役割が決まっているのでそんなに被ることはないんですけど、でも先ほどみたいに二人とも足元を撮っているみたいなことは起こる。
二宮 なので、本当にカメラマンの性格に合わせて配置を決めて、「ここは逃すなよ」だけ伝えて後は遊ばせる。
運営 ニノミヤさんもライブ中は実際にカメラを撮られているので、スイッチャーが持っているような俯瞰的な情報ってのはない状態なんですよね?だけど先ほど言っていたような信頼感で、「あいつならこれ撮ってるんだろうな」「なら俺はこれを撮るか」みたいな阿吽の呼吸で。
二宮 本番中はほぼほぼそんな感じですね。なので、頭の中でうっすらほかのカメラマンの映像は想像しています。
運営 すごい、すごいですよ本当に。もう本当になんか……「チーム」ですね(笑)。
二宮・加賀 (笑)。
二宮 そうですね。
運営 「本番中の監督の仕事は?」という質問も用意していたんですけど……「撮影」、みたいな。
二宮 そう。本来だったらダメなんです(笑)。ただウチの場合は、監督がもうカメラを振って(注:撮影して)るんですね。
加賀 僕としてもカメラを振ってほしい。
二宮 (笑)。
加賀 やっぱりニノミヤさんの画がすごい強いので。でも本当に、RAYの現場も含めいつも一緒にやっているメンバーはみんな良い画をちゃんと撮ってくるので、本当にありがたいですよね。
二宮 任せておいて大丈夫って思います。
運営 それはRAYにとっても頼もしいです。
■配信と収録における撮影の違い、リアルタイムスイッチングと撮影後編集の違い
運営 撮影をして配信をする、もしくは収録して後に編集をして何らかのコンテンツとして出すというのが基本だと思いますが、配信のみの場合と、配信はなくBlu-rayとして販売するだけの場合って、撮り方とかスイッチングに差は出ますか?
二宮 逆に収録だけの場合はスイッチングはない。
運営 あぁ、そうか。
加賀 僕はいないか、僕もカメラを振っているかですね(笑)。
二宮 けれど違いはありますね。先ほども話に出ていましたが、最近は自分の撮っている画がスイッチャーに使われているかどうかが分かるタリーシステムというのがあるんです。自分のカメラが使われていたらランプが付くとか、三脚を使っているカメラとかだと実際にスイッチングされている映像をその場でモニターで観られる。なので配信だと、そのタイミングごとに自分のパフォーマンスを最大限に発揮するみたいなことができる。完全収録だとそこがないので。自分の中ですごい絶妙な差だと思うんですけど、確かな違いはありますよね。
加賀 収録だけだとフィードバックがない分、「ちゃんと撮れてるのかな?」「撮れ高的に大丈夫かな?」と思っちゃいますよね。でもスイッチングされてて、その結果を観ながら撮っていればある程度修正できるというか、「被らない画を撮ろう」とはなってくるので。
運営 となると、「収録だけの時もスイッチングがあった方が実は良い」説がありますね。
二宮 大きい現場だと実際に、カメラマンのためにスイッチングをすることもあります。大きい制作会社などでは。
運営 配信後、もしくは収録後に編集を行います。例えばBlu-rayのために編集を行うとすると、ロジカルに考えればリアルタイムでスイッチングをするよりも、じっくり採用する画を選ぶことが可能なBlu-ray用のコンテンツの方が「最良」な画が選ばれる…ということにはなると思うんです。一方で、リアルタイムのスイッチングの方も勢い的な良さがあると思っていて。スイッチングは「Blu-ray的なコンテンツ」に近づくのが正解なのか、そこら辺の関係性って言語化されていたりするでしょうか。
加賀 大抵の場合は僕が編集で入ることはないんですけど、たまに撮影監督で入ってきた人から「忙しいから編集をやって」と言われることがあって、その場合自分は一回現場でスイッチングもしているし、後でもう一回編集もするみたいになることがあります。それらを比較しても、結局目指すものは僕は同じかなと思って。ただやっぱり編集作業は家で座ってやることになるので、グルーヴみたいなものには違いがあるかもしれません。
編集する時って、カメラの画を重ねて全部時間を同期するんですけど、先ほどのマルチビューみたいな画面がやっぱり編集ソフトにあるので、カメラが同期して再生されている状態で一旦頭から最後まで止めずに一回スイッチを切ります(注:スイッチングをやってみます)。で、それから修正していくみたいなやり方をやっているので、そういう意味では目指している所はあんまり変わらない気がします。ただ同じテンションで出来るかというと、やっぱりちょっと違ってきちゃいますよね。
二宮 編集の場合も結局、カメラ映像を家に持ち帰って、パソコンに何個も画面があって映像がタイムラインで流れていて、リアルスイッチングしていくので。そのタイミングで選ばれなかった画で実はすごいのがあるかもしれないんですけど、タイミング的な運も結構あるなと思っていて、「その時にした編集」みたいな。多分全くまっさらにして、もう一回編集をしたら別のものになるので。
運営 それも面白いですね。
二宮 なので家での編集でも、やっぱりリアルタイム感があるなとは思います。その時の運というかなんと言うか、その時の判断みたいなのがある。
加賀 ただ編集だと、そこで直しができるので、もう一回見返して「あ、これはやっぱりこっちにしようかな」みたいに変えることはありますけど。ただ切る(注:スイッチする)タイミングは変えないですよね。
運営 グルーヴ感というか、音楽的な話で。
加賀 あとはその文脈で、先ほど本当は話したかったネタでもあったんですけど、ダンスでターンした時のスカートの広がりみたいなのがすごい好きなんですね。ただ、良いんですけど、結構(スカートが)短かったりすると困るっていう(笑)。
二宮 正解が難しい(笑)。
加賀 絶対これ映っちゃうみたいな。内山さんのやつとかね。
内山結愛 私だと思って聞いていました。
加賀 本当、どうしようと思って。
運営 確かに、スイッチしたってことは「加賀が選んだ」みたいなことですからね(笑)。
二宮 これを見ろと(笑)。
加賀 だから、それはすごい難しいですよね。画的にトータルではすごい良い画なんだけど、めっちゃ映ってんじゃんと(笑)。だから編集だとそこは結構修正したりしますよね。あえてそうじゃない画を選んだりします。
■コロナ禍における映像表現の進化
運営 ここからコロナ禍と映像表現の関係についてお話を伺いたいのですが、そのためにちょっと補助線を引かせてください。音響のグミさんにインタビューを行った際に、会場で聴く音と配信先で聴く音についての関係をお話しされていて、会場で直接耳で聴く音を配信先に再現することは不可能なんだと。そこはまあ割り切って配信の音作りをしているというお話があって。
一方、っていうのも変なんですけど、配信映像はそれと少し事情が違うというか、そもそもカメラなる存在自体が現場にはないもので。例えばスイッチングをすることは現場の人間の視覚には不可能なわけだし、本来的に、現場とは違った体験を最初から志向できるという特徴があると思っています。
その意味で、コロナ禍は明らかに配信映像表現の実験場になっていたなと感じていて、僕は結構、その文脈においてアイドル文化の進化という点ではコロナ禍も良かったと思っているんです。そこでお二人にお聞きしたいのが、「コロナ禍以降の配信表現」というすごいぼんやりしたテーマなんですけど、配信で、もしくは配信だからこそできることみたいな文脈で、コロナ禍以降のことを語っていただけたらなと。
加賀 それで言うと、多分一番わかりやすいのは、RAYの1stワンマンとかもそうですけど、無観客だから出来る撮影スタイルみたいなのはありましたね。それこそ1曲ジンバル長回しみたいなのもありましたけど。ああいうのはやっぱりお客さんが入っていると絶対出来ないので。僕も他のグループさんで、ワンオペでジンバル長回し配信とかをやりましたけど、そういうのはコロナ禍になってからやられることが増えた。元々ね、(技術的に)出来なかったわけじゃないんですけどね。
二宮 出来なかったわけじゃないけど、そういう(無観客の)場が与えられたことで、それをどう遊ぶかみたいな、どう演出するかみたいな部分で、コロナ禍に入ってから新たな見せ方について考えさせられたなと思います。
加賀 そう、別にそんなに突拍子もないことをやっているわけじゃないんですけど、今までやろうとも思わなかったし、気付かなかったみたいな表現は結構ありますよね。
二宮 お客さんの目線の方が、正直ステージが綺麗に見える位置が意外と多いんですよね、カメラの配置的に。普段の有観客ではお客さんが入っている以上「ここにしかカメラは行けないよね」という範囲で撮っていて、お客さんがいる位置から撮る映像の良さに気付いてはいたけど撮る方法がなかった。だけど、フロアを使える無観客ではフロア全体をカメラが大きく動けますから、見せ方をいろいろ研究した部分はありましたね。
加賀 あと他のグループさんで、ライブはメインフロアでやっているんですけど、トークパートをラウンジでやったりみたいなこともありました。
運営 運営陣も配信で出来ることを考えなきゃないけないなと思う一方で、やっぱりアイディアの方は撮影・配信している側の方が絶対持っているんだろうなというある種の推測があるんですよね。例えば運営なりクライアントに、「せっかくなんだからこういう撮影はどうですか?」みたいな、提案というかアピールをしていくことってあったりはしますか?
二宮 正直あまりないですね。関係を築いてきたらそういう会話も出来ると思うけど、単発とかバーッて入ってくる仕事ではあんまり出来ないですね。
加賀 間に制作さんが入っていたりもするので、なかなか直接の提案というのも難しかったりしますし。もちろんそういう(直接提案するような)ところもあるのはありますけど。
二宮 あんまりこっちからそこまで提案することはないけど、その運営さんが「何か面白いものを求めているな」という感じの時にちょろっと提案したりとかはありますね。やっても大丈夫だなって(笑)。
運営 ちょっと隙を見せていくようにします(笑)。
加賀 そうですね。あと個人的な思いとしては、せっかく配信してコンテンツが出来たわけじゃないですか。でも結局アーカイブ期間が短い中で公開が終わってしまうので、やっぱりもうちょっと長い期間に渡って、ちゃんと観たい時にお客さんが観られて、ちゃんとお金が入ってくる形に出来るのが良いなって思いますよね。
運営 確かにそうかもしれないですね。
加賀 あと前回もそうですけど、ぴあとかだと海外から配信が観られないので、やっぱりプラットフォームの選択としては海外から配信を観る手段が何か欲しいかなというのはありますね。
運営 過去のワンマンについて、今後何らかのコンテンツ化も企んでおりますというところで、一旦(笑)。
■1stワンマン「birth」の可能性
運営 ここからRAYのワンマンについてお話をしたくて。思い出話パートみたいなところがあるんですけど、RAYのワンマンライブにおいて撮影配信周りでどんな演出をしてきたのかを、軽く早口で僕の方から説明します。
まず無観客で行われた1stワンマンの「birth」ですね。「birth」は天井カメラですね。そしてメンバー(月日)手持ちカメラ、先ほどおっしゃっていたジンバル長回し、あとはフロアに降りて踊るメンバーを周囲から撮る演出、そしてメンバーインタビューでも出ていた傑作「Fading Lights」。あれはリハの映像とリアルタイムの映像をスイッチングしていて、本当にすごいと思いました(下の動画参照)。「birth」でもう1つ面白いのが、以上の演出も含め撮影された全カメラ映像がグッズとして売り出されて、組み合わせてSNSや動画サイトにアップすることを許可するいう商品の販売をやっていました。
RAY 1stワンマン「birth」における「Fading Lights」の配信映像を解説した動画
運営 白川(さやか)の卒業公演でもある2ndワンマン「ひかり」では、白川が制作した絵本の世界がコンセプトになりました。実は運営側としては、現場にいる人間と配信を観ている人間が別のものを観るように明確に設計している。もちろんBlu-ray化されていないので、当時配信を観ていない方は分からないかもしれないんですけど、配信を観ていると絵本の世界に入り込めるように演出されていたんですね。手法的には、絵本の映像がスクリーンにプロジェクションされている現場会場の様子を撮影したカメラと、プロジェクション映像自体の差異を、明確に意識してスイッチングしてもらっているという感じで。
3rdワンマンの「moment」では配信がありませんでした。4thワンマンの「PRISM」では、撮影や配信自体に大きな仕掛けがあったわけではないんだけれども、演出がちょっと複雑性を持っていて、配信を見直すことで謎解き要素がある形になっていました。現場で観た後に配信を観ることの楽しさを目論んで設計していましたね。
以上、お二方に関わっていただいた3つのワンマンライブで、思い出や苦労話があればお聞きかせください。
二宮 すごい覚えているのは、演出の意図とはまた別だったのかなと思うんですけど、「birth」の時にフロアに大きい幕を吊ってプロジェクターで配信映像を映し、メンバーに見えるようにしていたじゃないですか?
運営 ありました。
二宮 あの映像がカメラに映り込んだ時に映像が多重になって。スイッチングされている映像、プロジェクターの映像、メンバーの表情、メンバーの寄りがバンッと出るみたいな、その光景をすごい覚えていて。あれがなんかすごい素敵だなと思って。ああいうやり方で、他であれをもっと意図して何か出来ないかなってちょっと思った。それをすごく覚えています。
加賀 あの景色はなんか印象的でしたよね。幕がなんとなくヨレてたけど(笑)。そういうのも含めて。
二宮 あそこでステージからメンバーが降りていって、フロアでパフォーマンスが行われていて、映像が映し出されてて、そこが多重に映っているというのが、すごい面白いなって。メンバーがいて、そのメンバーの奥にメンバーの顔が大きく映っていて。新たなものが生まれそうだなあというのを観た気がします。
運営 運営としては「無観客だからせめてメンバーに配信を観せてあげたい」という意図でやっていて、つまり偶然だったんですけど(笑)、そのように言っていただけて嬉しいです。ありがたい。
加賀 お金がかかるけど、無観客ならLEDパネルとか立ててみたりしても面白いなーって。逆に「Fading Lights」演出は無観客でやりましたけど、有観客でやっても面白かったですけどね。
運営 めちゃくちゃ面白いですね。
二宮 取りあえずRAYのライブは実験がすごい出来そうというのが、やっぱり全体であるので。そういう新たなものがどんどん生まれてくるんだろうなという風に思うんですよね。
運営 嬉しいです。
■撮影によって新しい見方を作り出す
運営 「birth」におけるこれらのパートは「カメラいろいろパート」と名付けられていて、(メンバーの)月日担当パートになっていたんですけども、二宮さんにも「何か良い案ありますか?」というご相談はしていて、本当に案をいくつも出していただいて。それを月日が判断したりとか修正したりとかがあったんですけど、あの経験はとても思うところがありました。
ステージ上の演出というとき、照明や映像演出、舞台美術といった視覚的な演出を基本的には考えると思うんですが、あの時の二宮さんとのコミュニケーションで、「(普段から)もっと撮影自体が演出に組み込まれていいのに」と強く思ったんですよね。結構カルチャーショックというか、めちゃくちゃ面白いなと。
補助線を引くと、僕はStereo Tokyo(注:2014年から2017年まで活動。ライブアイドル界隈にEDMとその文化を取り入れた女性アイドルグループ)が好きで。Stereo Tokyoが出てきた時に今までに観たことがないライブ映像を観ました。1つめが女の子たちがステージでライブしてるのに、その子たちを正面から映さず、ステージ側からずっと客席側を撮影してるんですよ。「パリピ」になって跳ねているお客さん、これがStereo Tokyoなんで、みたいな。2つめは「パーリーピーポー」と叫んだ後にみんなむちゃくちゃジャンプするわけですが、直前まで大人しかったフロアにいるカメラが、一緒になってバーッとすごい揺れ出す(笑)。カメラ自体の揺れが演出になっている。
今更だけど、「こんな見方があるんだぜ」というのを提供してくれるのが撮影なんだなと、Stereo Tokyoの動画を観て感じました。で、そのことをニノミヤさんとのコミュニケーションで改めて感じて、僕は本当に嬉しくなったという。
二宮 実際に撮影監督として配置を決めるときにも、やっぱり今の話と似たような感じで客席の中にカメラがいて、客席目線で曲のノリを伝える担当みたいなのも配置するので、そういう部分で撮影での演出がありますね。
加賀 これは仕事じゃないんですけど、昔オタクとしてtipToe.(注:2016年に結成された女性アイドルグループ。現在は第2期)のライブを撮影したことがあって、そのときにオタクの一人が頭にGoPro(注:臨場感のある映像を撮影するための、小型軽量・防水設計のアクションカメラ。頭に装着できる)をつけて沸いていて。そのカメラ映像がエモかったんですよね。
運営 エモそうですね。
二宮 めちゃめちゃそういう映像は良いですよね。ベルハー(注:BELLRING少女ハート。2012年〜2016年に活動し、2022年に期間限定で再結成)の「夏の魔物」の映像もニノミヤが撮影と編集をやっていたんですけど、オタクたちが持っていたGoPro映像を組み合わせたら、めちゃくちゃひどい画ですよ。
運営 でもエモさしかない。
二宮 エモさしかないですね。夏の魔物でオタク達が花火をバーッてやって、絶対ダメですけど(笑)、花火やってその辺を走り回ったりとか。リングの周り、メンバーがぐちゃぐちゃになって水がバーンと掛かったのがカメラでファーってなってる映像を使ったりとか。あれはあれでめちゃめちゃ好きですね。
運営 エモい。
二宮 エモい。
運営 最後はエモいで(笑)。……さて、1時間近くお話しいただきました。RAY運営側としては、撮影・スイッチングを含め、撮影から配信までの全段階自体がガシガシ演出対象になると捉えています。隙を見せるので(笑)、ぜひぜひ今後も面白い案を提案していただけたらと思います。
それでは、5月8日もよろしくお願いします。今日は長時間ありがとうございました。
二宮・加賀 ありがとうございました。
今回の運営インタビューでは、両者のこれまでの来歴と仕事における特長、チーム内のコミュニケーションと自律性、コロナ禍における映像表現の進化、撮影による演出の思考まで伺った。メンバーインタビューでは、0コンマ何秒の世界で対象を追い続ける撮影・スイッチングの世界の難しさとやりがい、アイドルライブの撮影・配信上の特徴やそれに必要な事前準備などが語られている。未読の方はぜひお読みいただきたい。